恋人というには




















湖の水音が満ちる船着場。軽く風が靡くその場所で、さらり、と月の光を反射して、淡く金に光る髪が流れた。
その髪を梳きながら己の膝で眠る少年を見つめるカインの顔は、酷く慈しみに溢れていて。
どれだけの想いがあるのか、その表情は容易にそれを窺わせた。そんな様子を見つめながら、オレは持っていたグラスの中味を煽る。
(……絵になるよなぁ)
どちらも人より整った顔をしているから尚更だ。
更にこんな時のカインの表情は滅多に見れるものじゃないから、やたらと得した気分になる。
ルックが傍に居る時だけ感じる、さざ波の様な静かなカインの気配。水の様な柔らかい空気。
そんなものを感じながらこの二人の傍にいるのが、結構好きで。
押し寄せる沈黙も気にならない。苦にならない。
そんな雰囲気を、カインは持ち合わせている。
「……シーナ?」
「え?」
いきなり此方に向けられた紅い瞳に思わずどきりとした。
「え? じゃねぇよ。どうした?」
えらく視線が熱い、と微笑ってカインがグラスに口を付ける。くい、と空にするも、物足りないのか近くにあるボトルを引き寄せ、グラスに再び透明な液体を注いだ。
「…夫婦みたいだと思って」
冗談混じりに答えてみる。
と、再度グラスに口を付けようとしていたカインの動きがぴたりと止まった。
ふ、と一つ溜息を漏らす。
「…夫婦、ね。確かにそうなれたら楽だったんだけどな」
「楽?」
意外にも真面目に返された言葉に、オレは一言訊き返した。カインの瞳が思慮深げに薄く細められる。
「例えばこいつが女だったら、抱いて孕ませりゃ終わりだ」
違うか? と問うてくるカインに、暫し逡巡した後肩を竦めて答えの代わりにした。流石に其処まで凄い恋愛はした事が無いので、答え様が無い。
そんなオレに微笑い掛け、カインは再びルックの髪に指を通した。
「…かと言って、ただ恋人って言うには言葉が足りない気がするしな」
好き過ぎて。
愛し過ぎて。
恋と呼ぶには、想いが深過ぎて。
カインが暗にそう語る。
聞いているだけで切なくなる様な、その想い。
「…じゃあ、何?」
問えば、カインは考え込む様に顔を夜空に向けた。少しの間想いに耽る様に天を仰ぐ。
「…――――そうだな」
ちらり、と紅い視線がオレに流れた。
淡い微笑と共に、言葉が夜の闇に溶けて。



「……愛人?」










愛する、人。





そういやそう書くんだっけ、と、その時漸く気が付いた。



















カイン様に「愛人」って言わせたかったが為だけに書いたお話(笑)

大分前の話になりますが、中国語の『愛人』は日本みたいにヨコシマな意味でなく、純粋に愛しい人とか愛する人って意味なんだよー、と誰かに聞いた事があったので。



20020919up


×Close