舞い落ちるは恋情の如し




雪の華




















その日、都市同盟では今年初めての雪が降った。
冷たい窓に手を当てると、しんしんと降り積もっていく雪を見つめ僕は密かに嘆息する。
(…間、悪い…)
カインがグレッグミンスターに帰ってから既に一週間。今日か明日には会えるだろうかと、少し期待していたのに。
恐らくこの雪が止むまでは足止めを食らい、此方に来る事は出来ないだろう。大雪とまではいかないものの、この積雪量では歩くのには向かない。
「……いつ、止むかな」
普段とは違う外の景色を再度見つめて、小さく呟いた。
――――その時。
「………?」
微かに呼ばれた気がして、僕は外を覗き込んだ。
声を掛けられて呼ばれた、という訳ではない。只、気配が其処にある。
しかも、この闇の気配は―――…。
「……ソウルイーター?」
自分にも聞こえるかどうかの声でそう呟いた次の瞬間、僕は其処から風を纏って掻き消えた。










「……ラダト?」
完全に気配だけを辿って転移した為すぐには場所を把握出来ず、軽く辺りを見回してから漸く僕はそう一言呟いた。空を見上げれば未だ止む事のない雪の結晶が、只静かに舞い降りてくる。
「…―――お前な…」
と、舞い降る結晶に手を差し伸べようとすれば、後ろから伸びてきた腕に引き寄せられぎゅっと抱き締められた。
「……カイン」
「いくら厚着だからって何か羽織る位しろ。外に居るって考えなかったのか?」
そう言いながらカインはその腕に自分の羽織っている外套を絡ませ、僕をその中に収める。
「…御免」
一言そう謝ると、すぐ傍で軽く溜息を吐く気配がして。ふと、僕を抱き締める腕の力が強まった。
「…どうしたの?」
「ん?」
「……ソウルイーターまで使うから、何かあったのかと思った」
普段なら、傍に居てもカイン自身の気配ならともかく、ソウルイーターの気配は全く感じる事は出来ない。戦闘時にカインが使用するか、もしくは集中してやっと微かにその気配の端を掴む事が出来る位で。
継承した後、余りの禍々しさに自然気配を断つ事を覚えたのだと、かつて彼は言った。そしていつしか、それが当たり前の様になってしまったのだと。
だから遠くから気配を察知する事など、カインがわざとやらなければ出来ない芸当なのだ。そうまでして呼ぶのだから、何かあったのだろうかと少し心配したのだけれど。
「別に何も、……逢いたかっただけさ」
さらりと言われた台詞に少しだけ頬が熱くなる。
「…―――だから偶には、お前の方から来て貰おうと思って?」
微笑う様に話すカインの声がやけに耳に響いた。この一週間、焦がれて堪らなかった静かな声。
そして、抱き締めてくれる温もり。
「っ、と」
回された腕を少し緩めて、僕は体を反転させた。抱き着いてカインの背中に腕を回す。
「ルック?」
少し驚いた顔をして、カインが僕を覗き込んできた。その顔に、少し可愛いな、とか思ってしまって。
「カインが傍に居るなら……雪は好きだよ」
冷たさが、その温もりを感じさせてくれて。音すらも奪うその白さが、周りの世界を掻き消してくれて。
――――お互いだけを、全てにしてくれる。
「……僕も、逢いたかったよ」
囁けば、一つ瞬いた後カインの顔に笑みが溢れる。嬉しそうな、幸せそうな笑顔。
その表情に、胸が締め付けられて。
「…―――好きだよ」
「……あぁ」
「…すき…」
「もう黙ってな」
少し冷えた温もりが唇に降りてくる。冷たいけれど、温かく優しい温もり。
触れ合う唇が心を温めてくれて。回された腕が体を安らげてくれて。
幸福に、涙が一粒零れた。





そのぬくもりだけが、全て。



















如月双夜様のリクです。何でリクを受けたのかは、最早記憶が定かではない…(オイ)


六花。むつのはな、と読みます。雪の結晶の事ですね。
こういう単語を見ると、日本語って尽々綺麗だなぁと思います。



20020605up


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