いっそ、何処かに閉じ込めておけるのなら 捜すままに訪れた図書室で見つけたのは、テンプルトンと仲良さげに話すその姿。 ―――気が付けば、その手を掴んで其処から連れ出していた。 「ちょ――、…っねぇ! カイン!」 掴んだ手をそのままに階段を上っていると、下から聞こえてくる抗議の声。面倒臭げに振り返れば、訳が判らないといった表情のルックの顔があって。 「……何だよ」 「こっちの台詞だよ、それは」 ルックが軽く溜息を漏らす。 「ねぇ…どうしたの?」 身長差と階段の段差の所為で、元々合わせ難い視線が更に合わせ難い。俺は掴んでいた手を離すと、ルックの両脇に手を差し入れその軽い体をひょいと抱き上げた。 「……ッ」 視線は合ったものの、自分以外の意思によって足が地に付いていない状態に、ルックが視線を外し怖々と下を見る。が、やがて俺に降ろす気が無いと判ると、再度視線を合わせて小首を傾げた。 「…カイン?」 「………」 「ね、何…?」 やはり訳が判らないといった様子のルックを抱え直して、その細い体を抱き締める。これ以上無いって位に、強く、強く。 「いっそ閉じ込めておけたらなぁ…」 「―――僕を?」 「他に誰が居る?」 「…どうして?」 ルックの胸元に埋めていた顔を上げ、至近距離に仰いだその唇に、少し首を伸ばして口付けた。それだけで軽く頬を赤らめる、その変わる事のない初々しさが堪らない。 「俺だけのものにしておきたいから」 ぽつりと答えると、ルックがきょとんとした顔で見下ろしてくる。 俺の肩に置いていた手でそっと頬を包み込んで、小さく囁いた。 「……そんな事しなくても、僕はカインのものだよ…?」 仄かに頬を染めてそう囁く姿がまた可愛らしい。思わず零れるままに笑みを浮かべながら、俺はその細い体を再度強く抱き締める。 「…そう、なんだけどな」 折れそうな位、只、強く。 横で静かに寝息を立てるルックの髪を梳いて、俺は溜息を吐いた。同時に自分の髪も掻き上げて、その質感の違いに知らず目を細める。 あの後、部屋に連れ込んで有無を言わせず隣で眠るこいつを抱いた。抵抗は見せなかったものの、ルックは最後まで判らないといった表情をしていて。 「…―――判んねぇだろうな…」 図書室でテンプルトンと話すルックを見つけた時、どうしようもない感情が俺を襲った。 俺と居る時とはまた違う、見た事の無いルックの表情を見て沸き上がってきたもの。 ――――嫉妬、…そして独占欲。 馬鹿馬鹿しいと思いながらも、その感情から逃げられない自分が其処には在った。ルック自身がそう言っていても、きっぱりと『俺だけのもの』と言い切る事が出来ない。 自由、だから。 ルックの世界は開けているから。 (―――いっそ、何処かに閉じ込めてしまえば) 誰の目にも触れさせない様にしておければ、こんな想いは感じずに済むだろうに。 それすらも出来ない。……いや、したくないのか。 「………愛してる」 静かに眠るルックにそう囁き、そっと口付けた。今の俺にはそんな言葉で繋ぎ留める事しか出来なくて、そんな無力な自分が酷く口惜しい。 「……イ…ン…?」 不意にルックの瞳がゆっくりと開かれて、焦点の定まらない視線が此方に向けられる。 「起こしたか?」 「…ん…」 気怠げに息を吐くルックの髪を梳いて、その額にキスを落とした。 「もっかい寝な。夜明けまでまだある」 「…カインは…?」 前を開けたままの、軽く袖を通しただけの寝巻の裾を引かれ、眠気混じりの甘える様な、上目遣いの視線でそう訊ねられて。これを跳ね除けられる人間が居るのなら、是非ともお目に掛かってみたいものだ。 「カイ――…」 再び俺の名を呼ぼうとするルックに、触れるだけのキスを落としてそれを遮る。俺は毛布に体を潜り込ませると、抵抗する事の無いルックの体をそっと抱き締めた。少し冷えた体にルックの体温がじわりと伝わってくる。 「…おやすみ…」 抱き締められた事にふわりと微笑い、ルックは一言俺に告げて目を閉じた。微かに擦り寄ってきたかと思うと、やがて再び静かな寝息が聞こえ始める。 「……お休み」 その寝息に誘われるかの様に、俺もそのままゆっくりと眠りに落ちていった。 ひとまずは、この腕の中に在るという幸福と共に。 終 8901hit如月双夜様リクでした。 リク内容は『独占欲の塊みたいな坊』(……えーと) カイン様は、リオよりは独占欲を表に出しやすいタイプだとは思うのですが…、……リクにお応え出来たかどうかは微妙な感じ…?(汗笑) とゆーかルックとテンプルトンって仲良さげですよね! 20020515up ×Close |