「trick or treat?」





期待する様な声で、少年はそう言った




















投げ掛けられた、定番の謳い文句。
一瞬ぱちくりと目を丸くして。そうしてやがて、くす、と小さく笑みを零した。
廊下でばったりと逢った途端、謳い文句を問うてきたルックの頭をぽんぽんと叩く。
「そういや、今日はハロウィンか。よく知ってたな」
あんな閉鎖的な所で育っていては、知らないだろうとばかり思ってたが。というか、俺も今日がそうだという事を忘れていたが。この時期は冬仕度に色々忙しい。
と、ルックがふるふると首を横に振って。
「知らなかった。でも、今日は何でか大人が皆お菓子くれるから」
フリックとかビクトールとか、マッシュもくれたよ? と右手に持った、色とりどりの菓子が入った袋を示す。
……確かハロウィンってのは、子供が大人に菓子を強請る日ではなかっただろうか。どうも大人の方が楽しんでる気がするぞ。
「で、シーナもくれて。その時に訊いてみたら、先刻の謳い文句を言えばお菓子が貰える日だって言うから」
「…かなり省略してんな」
「? …違うの?」
「違わねぇけどな。まぁ、後で教えてやるよ。…っていうかシーナの奴配ってんの?」
「貰ってもいたけど」
「……何やってんだあいつは」
呆れ気味にそう漏らせば、ルックは不思議そうに首を傾げた。その表情は、幾許か楽しそうなのが窺えて。
甘党が甘い物を貰えるっていうのは、やはり嬉しいもんなんだろう。行事をきちんと把握してない様だから、自分が子供扱いされているとは夢にも思っていないだろうが。
「で、強請りに来た訳な」
「………だめ?」
「んな事無ぇけど」
可愛く首を傾げるルックに苦笑気味に微笑い掛け、廊下の端へと移動を促す。素直に付いて来たルックの右手の袋を探って小さなチョコを取り出した。
「カイ…」
「いいから」
包装を破って中身を口に含ませ、反応を返される前に唇を重ねる。
「……ッ!」
ぴくん、とルックの肩が跳ねた。
「……っ、…ん…」
胸の辺りに押される様な抵抗を感じて。けれど止める気が無いと判ったのか、諦めた様子で胸元をきゅっと握り締めてくる。抵抗が止んだのを良い事に、暫くそのまま貪り続けた。
やがてチョコが溶け切った所で、そっと唇を離し解放する。
「……ッは…」
息の荒くなったルックに、もう一つ触れるだけのキスを落として。
「ゴチソウサマ。俺もまだ強請れる歳だし、この位良いよな?」
にっ、と笑い掛けてそう言えば、ルックはきょとんとした後、むぅ、と唇を尖らせた。
「……悪戯された気分だ」
「そう言うなよ。後で何でも好きなの作ってやるから」
な? と頭をぽんと叩けば、途端ぱあっと表情を綻ばせる。
――――あどけない、幼い子供の、顔で。
「本当?」
「ホント。後半刻程で終わるから、それまでに好きなの考えてろよ」
「うん…っ!」










trick or treat!






こんな言葉すらも知らなかった子供に、今宵ばかりは菓子という名の祝福を



















03年ハロウィン記念(例えup日が2日過ぎてようと!)


うちのマッシュとルックさんは仲が良いです。
つらつらーと書いてたらルックが余りにもちまくなり過ぎ、慌ててキスシーンを突っ込んだのは此処だけの話(笑)



20031102up


×Close