「なん、か…寒いですね」
ひび割れた窓から月光が差し込む深夜。ふるりと肩を震わせながら呟く少年を、神田は長い髪を掻き上げながらちらりと見下ろした。
此処数日、穏やかだった秋から急に冷え込み始めている。教団本部はやたらと標高が高い所に位置しているので、今年は雪を見るのも早くなるかもしれない―――其処まで考えて、神田はふ、と手を止めた。
思い付いた言葉をそのまま口に出してみる。
『……不香の花』
不意に呟かれた異郷の言葉に、アレンはベッドに横たわったままぱちりと瞬いた。
神田がこうしてふと日本語を呟くのは、実はそう珍しい事ではない。故にアレンはいつもの様に小首を傾げ、枕を背に上半身を起こしたままの神田に問い掛けてみる。
「フキョ……えっと、何ですか?」
言い澱むアレンにもう一度不香の花、とゆっくりと日本語で繰り返し、神田は微かに眉を寄せた。普段と同じ様にその意味を説明しようとして、適当な言葉が見つからなかったのだ。
ちっ、と一つ舌打ちを鳴らし、神田は仕方無いとばかりにせめて一番近い意味の言葉を探す。
「あー……香り―――が無い花の事だ。雪の異称」
「雪? 雪の名前なんですか?」
「舞い落ちるのが花みたいだからだろ」
「ああ。だから香りが無い、なんですね」
成程、と納得し、アレンは顔を綻ばせて。
「で、そのフキョウノハナ、がどうしたんです?」
再度投げ掛けられた問い掛けに、神田はアレンをその漆黒の双眸で見下ろした。
重心を傾けベッドに手を突き、仰向けに寝転んだままの少年に覆い被さる。手を伸ばして白いシーツに広がった白い髪を掬い上げ、に、と口の端を上げた。
「お前みたいだと思ってな」
「……そりゃあ、確かに白いですけど」
むぅ、と唇を尖らせるアレンの様子に、勘違いしている事を悟って神田はくく、と喉を鳴らす。
「そうじゃねェよ」
不香の花。
香り無き雪。
何物にでも染まる様に見えて、その実、何物にも染まる事の無い、その存在。
それはまるで、目の前の少年そのものではないか―――。
「……っ、カン―――」
「うるせェ。黙ってろ」
白い首筋に顔を埋め、押し返そうとする白と赤の手をシーツに縫い付け、神田はその白い肌へと舌を這わせた。
ちゅ、と少し強めに吸い付けば、息を飲む気配とぴくりと返される反応。ゆっくりと唇を離して視線を落とし、其処に鮮やかに残された朱い痕に、神田は満足げに口の端を上げる。
ああ、こんな行為までもが、まるで新雪をぐちゃぐちゃに踏み締める快感にも似た感覚を背筋に上らせて。
「………服着ても、見えちゃうじゃないですか」
ふと不満げな、けれども何処か満更でもない様子の声が耳元に吹き込まれ、神田は今度こそ珍しくも破顔して笑った。



















急に冷え込んだのでつい(つい、じゃねぇ)

いやぁ日本語ネタ楽しいわ!(笑)
因みに拙宅の神田さんは中国語も簡単な会話程度なら話せます(神+リナ万歳…!)バ神田さんでも必要なら覚えるんだよ!(…………)
ラビは神田さんとの出会い後に日本語を覚えました。リナリーは英語と中国語。アレン様は今のところ、英国式英語オンリーの設定です。



20080107up


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