首に腕が回された、と思ったが早いか、後頭部にそろりと触れられる感触。
次いでばさりと落ちた己の漆黒の髪に、神田は一つ瞬いてベッドに押し倒したアレンを見下ろした。
「……何やってんだ、お前」
怪訝に神田が問うも、アレンは楽しげに微笑むばかり。指に絡んだ結い紐を口許に運んでそっと口付けるその様に、神田はぴくりと片眉を上げてアレンの腕を掴む。
きょとんとするアレンから結い紐を奪って適当に放り投げると、神田は雑な仕草でアレンの白い前髪を掻き上げた。
「本人が目の前に居るってのに、わざわざ結い紐を相手にするとは良い根性してんじゃねェか」
「ん、ッ」
不意に重ねられた唇に、アレンは反射的に肩を竦めてそれを受ける。軽く絡めただけで離れていった柔らかい感触にほぅ、と吐息を漏らし、間近の神田に向けてアレンはふわりと微笑んだ。
「紐に焼き餅ですか? 神田」
「…悪ぃかよ」
予想に反して思わぬ正直さを見せた神田にぱちくりと目を丸くし、しかしアレンはすぐに楽しげに微笑って宥める様に神田の首に腕を回す。そのまま細身ではあるものの、自分より体格の良い体をくん、と引き寄せ頬に口付け、その肩口に気持ち良さげに擦り寄った。
「御免なさい。ちょっと、髪を解きたかっただけなんです」
「あァ?」
「だって好きなんですよ、僕。髪を解いてるキミに押し倒されるの」
あからさまな発言に面食らった様子を見せる神田に微笑い、アレンは首に回した腕の力を抜いて密着したお互いの体を僅かに離す。
長い髪に手を伸ばしてそっと梳き、その一房を口許に引き寄せ愛おしげに口付けた。
「……こうしてると、世界に僕とキミだけしか存在しない様に思えるんです」
漆黒に遮断された視界。
視界に映るのは愛しい存在だけ。
現実を、忘れた訳ではないけれど。
それでもこの一時だけは、胸に溢れる想いのままに――――。
「―――はッ」
「いひゃっ…!?」
と、鼻で笑われたかと思うといきなり頬を抓られ、アレンは堪らず声を上げる。
すぐに指は離れていったものの、じんじんと残る痛みにアレンが頬を擦りながら涙目で睨み上げれば、神田は呆れ気味に息を吐いてアレンを見下ろした。
「馬鹿かよ、お前は」
「ばっ…!? ひ、酷くないですか神田!?」
「どう考えても馬鹿だろうがよ」
すっ、と近付いてきた神田の顔に、アレンは咄嗟に目を伏せる。直後唇に落ちてきた温もりは、しかしそれ以上深く絡む事無くすぐに離れた。
「……っ―――…」
次いで、頬に触れる感触。温もりは眦に、額に、こめかみに。幾度も幾つも落ちてくる優しい口付けに、アレンの体からくたりと力が抜けていく。
やがて離れていった気配に瞼を上げたアレンがとろんとした視線で見上げれば、神田はく、と口の端を上げて可笑しげに笑った。流れる己の長い髪をばさりと背に払い、シーツに広がるアレンの白髪に指を潜らせる。
「別にこんなモン解かなくても、幾らでも俺だけしか考えられねェ様にしてやるよ」
すぐ傍の不敵な笑みにぱちりと瞬き、アレンは仄かに頬を染めつつ肩を竦めた。
僅かな思案の後、首に回していた腕に力を込め、そろりと神田の顔を覗き込む。
「…じゃあ、宜しくお願いします」
そうして照れ臭そうに囁かれた少々間抜けにも感じられる発言に、神田はにやりと笑って再びアレンに口付けた。



















日記より転載。

あーまーあーまーだー…(笑)



20070204up


×Close