「それでも僕は誰かを救える破壊者になりたいです」

そう神田に告げた後、白い少年は壊れた人形を抱いたまま泣き続けている。
その横で静かに佇んでいた神田は、耳に届き続ける小さな嗚咽にやがて密かに嘆息して前髪を掻き上げた。
別に泣き止むのを待たずとも、後をトマに任せてさっさと此処を去り次の任務地へ赴けば良いだけの話なのだ。コムイからの伝達は既に伝え終えたのだから。
それが出来ないのは―――弱さなのか。
神田はもう一つ嘆息すると、おもむろにどさりとその場に腰を下ろす。こんな時にどういう手が有効なのか、不本意ながら神田はよく知っていた。
視線を向ければ不思議そうな色をした、濡れた銀灰の双眸が神田へと向けられている。ぱちり、瞬いた拍子にまた一つ雫が零れ落ちた。
透明なそれを一瞬だけ見つめると、神田はアレンに手を伸ばして人形を手放させる。そうして僅かに浮かぶ困惑した様な表情には構わぬまま、華奢な体を引き寄せ白い頭を自分の肩に押し付けた。
「…………、……はっ? あ、あの、神田っ!?」
暫し唖然とした後、アレンは驚きも露に声を上げて藻掻き始める。
その抵抗を器用に封じ込むと、神田は頭を押さえ付けている方とは逆の手でアレンの体を抱き締めた。ぽんぽん、と白い髪を軽く撫ぜれば、ぴくりとアレンの肩が震えて動きが止まる。
抵抗が止んだと同時に神田がちらりと視線を向けると、少し離れた所から驚愕も露に唖然と二人を見守っていたトマが、はっと我に返り慌てて方向転換して彼等に背を向けた。
一方アレンは半ばパニックを起こしたまま、自分を抱き締める神田をちらりと窺う。
(な……何でこんな事に?)
本部の食堂であんな風に世話を焼いて貰ったとはいえ、少なくともこんなスキンシップを取る様なタイプでは無いと思っていた。……のだが、もしかして違っていたんだろうか。
それにしても、どうしてこんな状況でこんな状態になるんだろう。
というか離して下さいいやホント!
そんな風に様々な思いが胸を渦巻く中―――ふと、鼻腔を擽った香りにアレンはぱちりと瞬いた。
(…石鹸の香りがする)
無意識に擦り寄れば、頬を擽る黒髪の感触が心地好くて。
思わず無意識に体を押し付ければ、じわりとしたものが団服越しに伝わってくる。
(あった、かい)
それは、まごうことなき人の温もり。
一度彼を背負って歩いた時にも感じた筈のそれを全く覚えていない事に、アレンは困った様に小さく微笑おうとした。
けれど結局それは上手くいく事無く、ひくりとアレンの喉が微かに震える。
何故、だろう。
じんわりと温かいそれが。
優しく伝わってくる温もりが。
まるで、泣いていいよ、と。
そう言ってくれている様な―――気が、して。
「―――ぅ、ぇ」
暫しの間の後、ぎゅう、と背中の団服が握り締められる感触に神田はふっと目を細めた。
随分と力強いそれは、何より目の前の白い髪は、腕の中に居るのが別人だという事をありありと知らしめる。けれど止めようとは思わなかった、不思議な事に。
「ふぇっ、ぅ、ッく、……っ、ぅ、…うぅ〜…!」
何つーガキの泣き方だ、と半ば呆れつつ、神田はやがて小さく口の端を上げる。
全員が負傷の上に、三日の遅延。
けれどイノセンスは無事回収したのだから、ひとまず任務は無事終了したと言って良いだろう。
だからこれは、初任務を終えた子供に対する、せめてもの。
(……大概甘ェな、俺も)
そう胸の内で囁いて、神田は白い頭を撫で続けた。
腕の中でしゃくり上げる子供が、やがて泣き止み気拙げに顔を上げるその瞬間まで。



















インパクト→刷り込みの過程は必須なのですうふふ。

あ、勿論オカンダさんでも神+リナ前提ですよ。



20090330up


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