「ルック? 朝の軍議以来会ってないよ」
湿気でペンが紙に引っ掛かるんだよね、とぼやきつつテンプルトンが答える。
「そうか…、邪魔したな」
「ううん。…あ、カインさん」
「ん?」
扉を閉めようとする動作を止めてカインが振り向いた。ペンをインク壷に突っ込み、テンプルトンは頬杖を突く。
「ルックってさ、雨苦手だったりする?」
「……何でだ?」
一拍遅れて返ってきた問い返しに、地図職人の少年は軽く小首を傾げて。
「朝、雨が来るね、って一緒に空を見上げた時にさ。物凄ーく憂鬱そうな顔してたから」
あれは鬱陶しいとかそんな感じじゃなかったよ。
そう続ける妙に大人びている少年の顔を見つめ、カインはテンプルトンと同じ様に僅かに首を傾げた。
小さく息を吐き、曖昧な微笑を浮かべる。
「―――ま、似た様なもんだ」
ぱたん、と。空気を揺らさない様に静かに扉が閉じられた。






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