外は未だ強い雨が降り注いでいる。
わしゃわしゃと髪を拭かれるに任せていたタオルから顔を出し、ルックはぷは、と息を吐いた。風呂上がりでまだ少し上気した頬を、カインの指がそっと撫でる。
「…それで?」
「……え?」
薄茶の髪を梳きながらカインが首を傾げて。
「今日は何でまたあんな所に居たんだ?」
痛い所を指摘され、ルックは困った風に口を噤んだ。カインの漆黒の髪から雫がぽたりと落ちる。
と、外でまた雷鳴が轟いて。びくりと肩を震わせて反射的に縋り付いてくるルックに、カインが苦笑する様に目を細めた。そのまま抱き締めてぽんぽんと頭を撫ぜると、ルックはほぅ、と震える息を吐く。やがて暫しの逡巡の後、ぽつりと口を開いた。
「……だって」
「うん?」
そろり、と翠蒼の瞳がカインを見上げる。
「ずっと、一緒に居られる訳じゃないのに」
静かな呟きにカインの瞳が僅かに細められた。頬に掛かる髪を払われ、ルックは擽ったそうに肩を竦める。
「だから一人でも大丈夫にならなきゃって、思って。―――それに…」
「それに?」
むぅ、とルックが唇を尖らせて。
「…雷が駄目で一人で居られないなんて、物凄く情けないよ」
不満げに告げられた言葉に、カインの瞳がきょとんと瞬かれた。と、ぷ、と吹き出し肩を震わせ笑い始める相手に、ルックの眉が不機嫌そうに顰められる。
「……カイン」
「あ…ぁ、悪ぃ…」
「絶対悪いと思ってない!!」
布団に突っ伏して笑い続けるカインにルックが顔を真っ赤にして叫んだ。そんな様子がまた笑いを誘うのだと、当の本人は全く気付いていないが。
カインは込み上げる笑いを何とか押さえると、布団に横に転がったままルックの腕を掴んで引き寄せる。自分の上に倒れこんできた少年を腕の中に収め、そっと頬を撫でた。
「悪かったって」
尖ったままの唇にちゅ、と口付ければ、ルックは不満そうに、けれど頬を仄かに染めてカインの胸に顔を埋める。
とく、とく、と伝わってくる鼓動に感じるのは、安堵。
「…というか、別に情けなくても良いじゃねぇか」
「……何それ」
眉を寄せて顔を覗き込むルックの頬を、カインの両手が包み込んだ。
「お前、俺の情けないとこ散々見てきてるだろうが」
「…………」
それは確かに。
こっくり頷くルックを微妙な表情で見つめ、カインは薄茶の髪を指先で玩ぶ。
「…まぁ、要するにお互いにそういうとこ見てるんだから、おあいこって事で」
「おあいこ?」
「そう」
ふわりと微笑まれ、ルックは暫し考え込む様に俯いた。しかし不意に再び雷鳴が響き、ひゃっ、と小さな悲鳴を上げてカインの胸に顔を押し付ける。
宥める様に背中を撫ぜる手に、少ししてからのろのろと顔を上げて。
「………でも、やっぱり今のままだと…困る…」
「んー…」
ふむ、と頭を布団に預けてカインが天井を仰いだ。と、暫くしてから「あ」と小さく呟く。
「…カイン?」
「てるてる坊主作るか」
「え?」
自分に向けられた悪戯っ子の様な表情に、ルックがきょとんと瞬いた。
「雨は恵みだからまぁ仕方無いとしても、少しでも雷に遭遇する機会を減らせる様に、な」
どうだ? と問うカインをルックの瞳がじっと見つめる。
やがて。
「てるてるぼうずって、何?」
「…………」
無邪気な顔をして問うてくる小さな少年に、カインは楽しそうに微笑ってそっと口付けた。













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