横で静かに寝息を立てるルックの髪を梳いて、俺は溜息を吐いた。同時に自分の髪も掻き上げて、その質感の違いに知らず目を細める。
あの後、部屋に連れ込んで有無を言わせず隣で眠るこいつを抱いた。抵抗は見せなかったものの、ルックは最後まで判らないといった表情をしていて。
「…―――判んねぇだろうな…」
図書室でテンプルトンと話すルックを見つけた時、どうしようもない感情が俺を襲った。
俺と居る時とはまた違う、見た事の無いルックの表情を見て沸き上がってきたもの。
――――嫉妬、…そして独占欲。
馬鹿馬鹿しいと思いながらも、その感情から逃げられない自分が其処には在った。ルック自身がそう言っていても、きっぱりと『俺だけのもの』と言い切る事が出来ない。
自由、だから。
ルックの世界は開けているから。
(―――いっそ、何処かに閉じ込めてしまえば)
誰の目にも触れさせない様にしておければ、こんな想いは感じずに済むだろうに。
それすらも出来ない。……いや、したくないのか。
「………愛してる」
静かに眠るルックにそう囁き、そっと口付けた。今の俺にはそんな言葉で繋ぎ留める事しか出来なくて、そんな無力な自分が酷く口惜しい。
「……イ…ン…?」
不意にルックの瞳がゆっくりと開かれて、焦点の定まらない視線が此方に向けられる。
「起こしたか?」
「…ん…」
気怠げに息を吐くルックの髪を梳いて、その額にキスを落とした。
「もっかい寝な。夜明けまでまだある」
「…カインは…?」
前を開けたままの、軽く袖を通しただけの寝巻の裾を引かれ、眠気混じりの甘える様な、上目遣いの視線でそう訊ねられて。これを跳ね除けられる人間が居るのなら、是非ともお目に掛かってみたいものだ。
「カイ――…」
再び俺の名を呼ぼうとするルックに、触れるだけのキスを落としてそれを遮る。俺は毛布に体を潜り込ませると、抵抗する事の無いルックの体をそっと抱き締めた。少し冷えた体にルックの体温がじわりと伝わってくる。
「…おやすみ…」
抱き締められた事にふわりと微笑い、ルックは一言俺に告げて目を閉じた。微かに擦り寄ってきたかと思うと、やがて再び静かな寝息が聞こえ始める。
「……お休み」
その寝息に誘われるかの様に、俺もそのままゆっくりと眠りに落ちていった。
ひとまずは、この腕の中に在るという幸福と共に。













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