さあさあと、細く硬質な水音が鼓膜を響かせる。
指先が絡む様に重なった手に力を込めれば、同じ様に返される力。自分に覆い被さったままの重さが心地好いと感じるのは、既に体と心に馴染んでしまったからなのだろうか。
そっと前髪を払われる感触に薄らと瞼を押し上げれば、薄暗闇の中でも判別出来る深い紅の瞳が、先程までの情交が嘘の様な透明な色で此方を見下ろしていた。
「…大丈夫か」
「ん……」
既に雷鳴は、遠く。この分では雨が止むのにも、そう時間は掛からないだろう。
「…今、何時位…?」
ぽつりと呟く様に問えば、カインが手を伸ばして近くにあった自分の衣服を漁る。その僅かな身動ぎにもぴくりと反応すれば、カインは取り出した懐中時計を確認しながら小さくくすりと微笑った。
「もうすぐ夕飯時、ってとこだな」
ぱちん、時計の蓋を閉じる音が響く。
「雷も行っちまったし、もう少し休んでから部屋に戻るか」
此処の鍵も閉めてかねぇと、と続く呟きに、そういえば、と再び疑問が脳裏に甦った。
「何で、鍵…?」
「うん?」
一度小首を傾げたカインは、それでも言葉少なな僕の問いの意味を察したのか、やがてあぁ、と小さく声を漏らす。そっと手を伸ばし、床の上に敷いた衣服の上に散らばる僕の髪をさらりと梳いた。
「残ってるのがお前しか居ないってんで、預かったんだよ。俺が来た時にはもう、すぐに大雨降り出しそうな雲してたしな。緊急時でもあるまいし、女子供を土砂降りの中走らす訳にはいかねぇだろ」
ちゅ、と僕の額にキスを落とし、カインはゆったりとした動作で頬杖を突く。ふ、と浅く吐息を零す僕を見下ろし、僅かに小首を傾げた。
「どうした」
「……え…?」
「まだ、怖ぇのか?」
問いざま、そっと唇にキスが落ちる。
慰撫する様なキスに目を閉じて、そうかもしれない、と思考の端で考えた。
怖いのは、カインと出会う前は雷をどうやってやり過ごしていたのか、それを思い出す事が出来なくなっている自分だ。
どうやって過ごしていたのか。
どうやって耐えていたのか。
雷が恐怖である事は以前からであった筈なのに、自分はいつの間にやらそれを思い出せなくなっている。
「…ルック…?」
両手を伸ばし、そろりとカインに縋り付く。抱き締め返してくれる腕と伝わってくる心音にほっと安堵の息を吐きながら、じわじわとした焦燥にきゅっと唇を噛んだ。
いつかこの温もりが傍から無くなった時、自分は一体どうするのか―――。
「……もうちょっと、このまま」
抱き付いたままぽつりと零せば、一瞬の間の後ふわりと髪を撫ぜられる。
承諾の代わりの慰撫を甘受しながら、焦燥をやり過ごす様に目を閉じて。
「……ありがと……」
雷に対するそれとは違う。
他のどんなそれとも違う。
けれども、胸の内を蝕むそれは、確かに。













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