鮮やかな殺意
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「ファーストネームで呼ぶなと何度言ったらその賢い頭は理解しやがるこの馬鹿ウサギ!!」
神田の叫びとラビの悲鳴が響き渡り、六幻の切っ先がきらりと光を反射する。次いでひっくり返るテーブルと椅子、そして食器の数々。
その光景を遠目に眺めながら、アレンはハンバーグを頬張りつつ溜息を吐いた。ああ、食器ごとひっくり返ってしまった料理がとっても勿体無い。
「ちょ、ユウちゃんユウちゃんストップ…!」
「ちゃん付けするんじゃねェ!!」
穏やかな昼食の時間が訪れる筈だった食堂は、今や阿吽叫喚の図。アレンの向かいに座っているリナリーが、呆れた様子で頬杖を突く。
「全く、コミュニケーションならもう少し穏便に取れば良いのにね」
「…あれ、コミュニケーションなんですか?」
「そうよ。だって本当に嫌だったら、神田はどんな事をしても止めさせるもの」
断言する口調にぴくりと微かに反応し、しかしアレンはそれを悟られぬ様にかくりと首を傾けた。そうなんですか、と曖昧に相槌を打つ。
胸の内にひやりとしたものが広がって、誤魔化す様にこくりと喉を鳴らした。
(そうだね、リナリー)
(ユウは優しいから、結局の所許しちゃってる)
(でも僕は)
(僕は)
(そんなに、心が広くない)
「……アレンくん? どうしたの?」
ふと黙り込んでしまったのを怪訝に思ったのか、顔を覗き込んでくるリナリーにアレンはぱちりと瞬く。慌てて微笑を浮かべ、何でもないですよ、と首を横に振った。フォークを握り直し、切り分けたハンバーグを再度口に運ぶ。
ちらり。視線を向けた先には、未だ暴れ続ける青年が二人。
ふ、とアレンの唇が微かに弧を描いた。
(―――ああ、今すぐ殺してやりたい)
生まれてしまった鮮やかな殺意は、隠すのが本当に大変で。
(ソノ名前ヲ呼ンデ良イノハ、僕達ダケナノニ)
終
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アレン様、ラビに殺意を抱くの巻。
20090330up
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