ノット・ロリータ・コンプレックス
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「災難だったね。ごめんね、うちの学生が」
「いえ…僕なら大丈夫ですから」
「彼等の事はちゃんと兄さんに言っておくから安心してね」
「え」
リナリーの兄といえば、ローズクロス学院理事長のコムイの事である。流石にそれはちょっと、とアレンが顔を引きつらせるも、リナリーはいいのよ! と憤然と続けた。
「あの人達の顔覚えてるの。この前も構内で騒ぎを起こしたのよ! その上アレンくんにまで手出しするなんて……絶対に許せないわ!」
目を吊り上げて怒るリナリーの勢いにそれ以上何も言えず、アレンは彼女に視線を向けたままそろりと神田の肩に口許を埋める。しかし次の瞬間先程までの怒りが嘘の様ににこりと微笑むと、リナリーは再度アレンの髪を撫ぜた。
「それはともかく、今からティエドール教授の研究室に行きましょ。ちょっと休憩していくといいわ」
「ティエドールのおじ様の研究室…ですか? でも…」
窺う様にアレンが視線を向ければ、神田は少女の白い頭をぽんと軽く叩く。
「いいから行くぞ。まだ少し顔色が悪い」
「そうよ。それに今日は久し振りのデートなんでしょう? なのに暗い気分を抱えたままなんて勿体無いわよ」
先に行ってお茶の用意しておくわね、と言い置くと、リナリーは手を振りながら笑顔で駆けていった。
その姿を見送ってからアレンは再び神田の肩に顔を埋める。色々な意味で目立つ神田が少女を抱えた姿というのは、やはりどうしても注目を集めてしまうものなのだろう―――ひしひしと感じる周囲からの視線が非常に居心地悪い。
「…………、…神田」
「何だ」
「良かったんですか」
「何がだ」
「さっきの事です。ああいう人達はある事ない事言い触らしますよ」
「だろうな」
「ロリコンとか言われちゃうかもしれませんよ」
「かもな」
「…良いんですか」
アレンがぽつりと問えば、ふ、と頭上で笑む気配。
「知った事か。別に俺は少女趣味じゃねェし、子供を婚約者にしたつもりもないからな」
―――大人になるまで待つから、俺のものになれ。
目線を合わせてそう告げられた時、夢じゃないかと本気で疑った。
婚約が成立した後も、彼の横に女性が立つ度にやきもきして。どうしてこんなに年の差があるんだろうと落ち込んで。やっぱり子供は要らないと言われたらどうしようと不安になって。
……でも、どうやらそれらは全てアレンの杞憂だったらしい。
(僕の事―――おんな、だって)
アレンの頬が自然と緩んでいく。
神田はアレンという子供ではなく、アレンそのものを選んでくれていたのだ。今更ながらにそれを実感してアレンは酷く嬉しくなる。
「早く十六歳になりたいな」
身も心も戸籍も、全部ひっくるめて早く神田のものになってしまいたい。
ふと零れた呟きはそんな願い故だったのだけれど。
「ゆっくりでいい」
けれども神田は頭を撫でながらそう言ってくれるから。
ああ大切にされているのだ、と幸せな気持ちになる。
子供でも彼の横に立っていて良いのだ、と思える。
「神田!」
―――ああ、本当に、全部全部好き過ぎて堪らない。
「事実無根でもロリコンって噂されて指差されちゃうからには、僕が責任持ってちゃんとお婿に貰いますからね!」
唐突にがばりと頭を起こしたアレンの発言に目を丸くしたものの、程無くして神田は口の端を上げて楽しげに笑う。
「そりゃ有難いな」
神田の笑みに釣られる様にして微笑い返し、アレンは彼の頬にそっと唇を寄せる。
―――まずは、恥ずかしがらずに自分から唇にキス出来る様になろう。
アレンが密かに目標を掲げた瞬間だった。
- End -
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8周年リクの一つで『見習うべきは偉大なる』の続き、との事で、こんな感じになりました。
『見習う〜』が十一月の冬で、今回が年を越した五月の春。十三歳と二十歳です。
前回の神田さんが微妙な変態だった分、今回男前になる様に頑張った……つもり、なんですが(ありー)
(2010-10-06)
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