【バイトinコンビニ】





「やっほー、美鶴」
労働してる? と笑顔で問うてくるのは、美鶴の同居人兼恋人の三谷亘。
その顔を至極嫌そうに睨み付け、美鶴はレジに立った態勢のままお前な、と呟く。
「来るなって言っただろ」
「そう言われるとつい行きたくなるのが人の性って奴だよね」
はい、と目の前にペットボトルを置かれ、美鶴は渋い顔をしながらそれを手に取った。バーコードをスキャナーで読み取ってレジを操作し、百四十八円です、と呟く。
「先刻、宮原に会ったよ。美鶴がコンビニでバイト始めたって言ったら、一度で良いから是非とも行ってみたいって」
「……教えてないだろうな」
「ないない! 美鶴が壮絶に怒るの目に見えてたもん! …はい、百五十円」
ちゃり、と渡される小銭を確認し、それなら良いけど、と呟きながら美鶴は再びレジを操作した。
そのまま釣銭とレシートを渡そうとして―――けれどそれらが亘の手に渡る前に、ふと手首を掴まれてぐっと引き寄せられる。
驚き目を瞠りながら美鶴が見遣れば、亘は顔を近付けながら何処か悪戯っぽく微笑って。
「あと、どの位?」
囁く様な問い掛けに、バイトが終わる時間を訊かれているのだと気付き、美鶴は壁に掛けられた時計にちらりと視線を向けた。
一時間弱、と小さく答えると、亘はにこりと再び微笑う。
「じゃあ、待ってる」
ぱっ、と手首が解放され、美鶴が瞬くが早いか、亘はその手の中の釣銭とレシートを掠め取ってレジから離れていった。ひらひらと手を振りながら店の外へと出て行く姿を見送り、美鶴はふぅ、と息を吐く。
と、ふとつんつんと横から腕を突付かれ、美鶴ははっと其方に顔を向けた。其処にはバイト仲間である、興味津々といった表情を浮かべる女子高生が二人。
「…何?」
「先刻の子、芦川君の友達? 随分仲良さそうだったけど」
何故答える必要が、とも思ったものの、後がしつこそうだと判断し、美鶴は無難に同居人だけど、と答える。
「えーっ! じゃあ一緒に暮らしてるんだ!?」
「ね、結構カッコ良かったけど、彼女とか居るのかなぁ」
ちらちらと店の外の亘へと視線を投げながらの質問に、流石にむっとしつつも美鶴は無表情を保った。だから来るなっていったんだ、と胸中で悪態を吐きつつレジから離れる。
「あ、芦川君?」
「恋人は居る」
外のごみ片付けてくる、と言い捨て、背後で聞こえるえーっ、という残念そうな声に内心舌を出しながら入口へと向かった。嘘は言っていない。
ドアを開けて外へと出れば、それに気付いた亘がふと携帯から顔を上げる。あれ? とぱちくりと瞬きながら立ち上がり、自分へと真っ直ぐに駆け寄ってくる恋人の姿に少しだけ溜飲を下げ、美鶴は壁際に設置されたごみ箱へと歩み寄った。
「あ、片付け?」
「ああ」
ごみ箱を開きながら、美鶴はふと傍に立つ亘を見上げる。すると亘は何? とでも言う様に軽く小首を傾げた。
言葉も無く成立した会話に、美鶴は浮上する機嫌のままにふっと微笑う。
「間抜け面」
「へっ?」
きょとんと忙しなく瞬く亘に、美鶴は更に格好を崩して笑った。





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ミツワタミツ高校生同居設定。美鶴がコンビニなら亘はスーパーって感じ!(庶民臭さが!)
何となくバイトする美鶴さんが書きたかっただけなので…何で働いてるのかは謎(笑)
そして未だ小説未読にも拘らず宮原君の名前が出ている事については、目を瞑って下さい…。


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