「……………馬鹿?」
「そう? 結構正常な感覚だと思うけど。此処には漁師さんや、子供達や、ルックだって居るわけだし」
誰が欲情しちゃうか判らないじゃないか。
至極真面目にそう続けると、べしりと後頭部をはたかれる。
「阿呆な事言ってんじゃないよ。僕があんな小猿に欲情する訳無いだろ」
「……判ってるけどね」
後頭部をさすりつつ、ぽつりと呟き返した。
判っている。ルックがレノンに、そんな邪な感情を抱かない事位。
これでも、この親友の好みは把握してるつもりだから。
……それでも止められない、思わず嫉妬してしまいそうになる心。
恋する男心は、狭い上に複雑なのだ。
「……まぁ」
「え?」
と、不意に耳を掠めた呟きに俯き掛けていた顔を上げる。視線を向けると、ルックはつまらなそうに膝に頬杖を突いていた。
「これ以上こんな暑い所に居ずに済む訳だしね。其処ら辺は感謝してあげるよ」
フッ、と綺麗な顔に浮かんだ不敵な笑みに、一瞬瞬いてから、こちらも淡く笑みを返す。
「…レノンが戻ってきたら、食堂に行こうか。かき氷なんてどう?」
ぴくり、とルックが反応して。
「……奢りだろうね?」
期待の入り混じった声の問いに、自然浮かぶ笑みのままにこりと微笑い掛けた。
「勿論。みぞれにつぶあん、フルーツも山程、ね」
「…練乳も忘れないでよね」
「ああ、そうだっけ」
実はかなりの甘党な親友に、くく、と喉で小さく笑う。
見上げれば鮮やかな青い空。
少し涼しげな風を受けて。
この心地好い居場所で、恋人を待ちつつ。
他愛も無い会話を交わしながら。
夏もまだまだこれからだな、と。
恋人が聞いたら喜びそうで、親友が聞いたら辟易しそうな、そんな事をぼんやりと、考えた。
終
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