きぃ、と音を立てて窓が開いた。
姿を見せた細身の少年が窓辺に腰掛ける。口元に手を遣り、外へと口笛を一つ響かせて。
暫しの静寂。
不意に羽音がそれを破り、黒曜の羽色の鳥が一羽、少年の差し出した右手にふわりと舞い降りた。少年の指先が鳥の首筋を擽る。
「気ぃ済んだか?」
応える様に鳥がこくりと首を傾げた。少年が口元を緩める。
「じゃあ、寝な」
二週間も離れてたんだからな、と続ける少年を見上げ、鳥はばさりと羽を鳴らした。次の瞬間には少年の右手に融けその姿は跡形も無く掻き消える。少年が紋章の浮かぶ右手の甲を一撫でし、腰を上げて窓を閉めた。
「…ユエ、寝たの?」
「あぁ」
背後からの問い掛けに少年は振り返る事無く答える。寝台に歩み寄って腰掛け、扉を閉めて自分に歩み寄ってきた三つ編みの少年に手を伸ばして。
「ルック」
呼べば、ルックは抗う事無く差し出された手を取り、寧ろ少年を押し倒す様に共に寝台に倒れ込んだ。啄むだけのキスを幾度か繰り返した後、ほぅ、と息を吐いて僅かに上半身を起こす。
「……カイン」
「ん…?」
「後悔してるの?」
ぽつりと零れた問いに、カインは面食らった様に瞬いた。少し困った様に小首を傾げて。
「そう見えるか?」
「うん」
ルックの細い指がカインの頬を撫でる。柔らかな愛撫に紅い瞳がゆるりと細められた。
少しの沈黙の後、小さく息を吐いてカインが口を開く。
「……多分リオは、まだ失うものがある。俺と同じに」
落ちる呟きを受け止めるのは、翠蒼の慈愛。
指先が、カインの額に掛かる黒髪を払った。
「せめて忠告しておけば良かったかもしれない―――とは、思ってる」
溜息混じりの言葉にルックがくすりと苦笑を漏らす。馬鹿だね、と囁いて。
「そんな事しても無駄だよ。寧ろ余計悪い方向に転ぶ可能性だってある」
「判ってるよ」
「判ってるなら最初から言わない」
「訊いたのお前じゃねぇか」
「そうだよ」
「じゃ、…っん」
ふと音が途切れる。
唇を塞がれたカインが瞬き、やがて目元を緩ませルックの頭を抱き込んだ。暫く水音だけが室内に響き、やがてキスが解けるとルックは唇が触れ合う距離で悪戯っぽく微笑う。
「…心配させたお返し」
「…あ、そ」
肩を竦めて苦笑し、カインはそろりと三つ編みに手を伸ばした。髪を纏める紐を片手で器用に外して三つ編みを解く。シーツの上に薄茶の髪が流れた。細い首筋にカインの唇が、触れる。
お互いに欲情しているのは明らかだった。こんなに長い間離れていた事など、此処久しく無かったのだから。
「……あ」
「ん?」
体勢を入れ替え組み敷かれると同時、ルックが小さく呟きを零した。問う様にカインが視線を向けると、ルックは口の端を上げて。
「色々扱き使われて疲れたから、今回はもう行く。次に会ったら何か美味い物を作れ」
「………あ?」
「リンからの伝言」
にっこりと告げられ、カインは呆気に取られた様に閉口する。が、やがてじとりとルックに視線を向けて。
「……お前、この状況で言う事か? それ」
「だって今思い出したんだよ」
「思い出したんだよ、じゃねぇよ」
ぎゅう、と抱き込まれ、ルックが声を上げて笑った。それにつられる様にカインも笑い、ルックの唇を塞ぐ。
ぴちゃり、水音が鳴って。
「……じゃ、心配掛けたお詫びにサービスさせて頂きましょうか」
ふふ、とルックが可笑しそうに微笑った。カインの首に細い腕がするりと回される。
「期待してるよ」
そうして落ちる帳。
少しの痛みを分かち合い、只々お互いを確かめ合い、その夜の情交は中々終わる事は無かった。










ほんの一瞬の邂逅




ほんの一瞬の交差







それがもたらしたものは――――…



















日記で(確か一月辺りから)連載していた坊ズ。
結構人気があったのと、思いの外私が気に入ってしまったので(苦笑)正式upさせて頂きました(10だけ書き下ろし)


いやー本当に好評だった。凄かった。特に坊坊とかルクルクとか。
皆様って本当に寛大なんだわ!と、連載中は尽々実感したものです(笑)

これを機に、色モノ作家の異名を欲しいままにさせて頂こうかと!(待て待て)


色モノ作家と暗転女王、どっちがマシだろう…。



20050515up


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