042:初恋
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「初恋ってね、この本によると実らないものらしいですよ」 ふと、アレンはぽつりと呟いた。 手の中にはラビから借りた薄っぺらい恋愛小説。その見た目通りに中身も非常に薄っぺらい。 文字の羅列から目を離さぬまま、それでもつい呟いてしまったのは、それが嘘だという事を身をもって知っているからだろう。 アレンのココロは神田が初めてで。 ついでにキスも神田が初めてで。 カラダは初めてではなかったけれど、それはまぁ、師匠が師匠なので仕方ないと諦めるしかない。 ともかく、そんなアレンが神田と想いを通じ合わせたという事は、初恋が実ったという事に他ならないのだ。 「随分デタラメな本だな」 「そうですね」 伸びてきた手がアレンの前髪を払い、そっと頭を撫ぜた。 投げ出された足の太股に頭を預けて寝転がった体勢のまま、アレンはページをぺらりと捲る。 ―――初恋はキミです、だなんて言った覚えも態度に出した覚えもない事。 ―――以前リナリーから聞いた、神田が恋人という関係を持ったのは自分が初めて、という事実。 それらに思い至り、『デタラメな本』という神田の発言にアレンが心底苦悩し百面相する羽目になるのは―――もう少し後の事になる。 - End - |
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別に隠すつもりのない神田さんが余りにさらりと発言してしまった所為で、うっかりスルーしてしまったアレン様、みたいな(笑) (2010-03-09初出) |