【恋人的ハッピーバレンタイン?】





「あ、ルックおっかえりー」
扉を開く音に顔を上げたロッテは、室内に滑り込んでくる上司である少女の姿を認め、彼女に向かって笑顔で手を振った。
そのまま先程まで整理していた書類の山に手を突き、ほてほてと歩み寄ってくるルックの顔を、好奇心も露にずずいと覗き込む。
「で、どうだった―――って、あれ?」
意外にも、バレンタインという行事の意味をちゃんと理解していた―――これはどうやら、師匠絡みで知っていたらしい―――ルックが、頬を染めつつ贈り物の相談をロッテに持ち掛けたのが一週間程前の事。
ルックが、己自身の想いに気付く以前からその恋を応援していたロッテは喜々としてその相談に乗り、贈り物を用意した彼女を送り出したのが四半刻程前。
現在ルックは、両手に可愛らしい包装の小さな包みを持ち、微妙な表情で小首を傾げていた。
「どしたの、それ? …というか、渡したのよね?」
ルックの手元の包みを指差しながらロッテが問うと、ルックは小さくうん、と頷く。
「渡した事は渡したんだけど、何か……差し出した途端」
「途端?」
「カイン、耳まで真っ赤になっちゃって」
「真っ赤ぁ!?」
惜しい。
それは物凄く見たかった。
「それで、そのまま暫く固まってて。声掛けたら一応受け取ってくれたんだけど、そうしたら逆にこれくれて」
そのまま、壁にぶつかったりしながら行っちゃった。
どうしたんだろう、としきりに不思議そうに首を傾げるルックを余所に、ロッテは彼女から顔を背けながら内心カインに向けて同情の念を向ける。
―――あ、カインさんってばもしかしなくとも、ルックがバレンタイン知ってる事気付いてなかったんだ。
―――だから最初から期待せずに、じゃあどうせなら自分で用意しちゃえ、って考えたんだきっと。
―――なのに、予想外にもルックから貰っちゃって。
(……心底嬉しかったんだろうなぁ)
それはもう、好きな少女の前でみっともない姿を見せてしまう程に。
壁にぶつかるカイン、というちょっと想像出来ない光景に内心笑っていたロッテは、目の前で困った様な表情を浮かべるルックにふと気付いた。問い掛ける様に顔を覗き込むと、ルックは眉を寄せて俯いてしまう。
「ルック?」
「…僕」
「うん?」
「何か、変な事したのかな…」
要らぬ方向へと想像を働かせ落ち込み掛けている少女にぱちくりと目を丸くし、ロッテはやがて苦笑気味に破顔した。そのままぽん、とルックの薄い肩を叩き、顔を上げさせる。
「大丈夫! 吃驚しただけよ、きっと!」
「…そうかな」
「そうそう。何なら明日にでも美味しかった? って訊いてみたら良いんじゃない? 明日なら、吃驚したのも少しは落ち着いてるだろうし」
ね、と重ねて宥めるロッテに、やがてルックは微笑を浮かべて小さく頷いた。
それに頷き返したロッテは、ふと視界に入った時計に唐突にあ! と声を上げる。
「ロッテ?」
「いっけない、もうこんな時間! アイリーンさんの所に行かないと」
「アイリーンの所? 何で?」
「女の子達だけで集まってチョコレート品評会! ルックも行こ?」
「え、でも僕」
仕事が、と呟くルックの手を、ロッテが楽しげに笑って引っ張った。
「いーの! 今日は女の子が主役の日なんだから」
ほらほら、と己を引きずるロッテを見つめ、ルックはぱちぱちと忙しなく翠蒼の瞳を瞬かせる。
が、やがて顔を綻ばせると、掴まれた手を握り返しながらうん、と頷いた。





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女の子達は書くの楽しいねー…。
ていうかオチが微妙?急いで書いたから…。



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