【ひとひらの逢瀬】 引き戻された意識がいち早く捉えたのは、唇に触れる冷えた温もりで。 「―――ッ、か、はっ…!」 直後、体の内から逆流してくる水をげほごほと咳き込みながら吐き出せば、上からくすりと楽しむ様な、けれども何処か安堵を含んだ笑い声が落ちてきた。 「……―――っ…」 一通り咳き込んだ後、薄らと重い瞼を押し上げる。 視線を上げれば、自分に覆い被さる人影。その顔は月の逆光の所為で窺えない。けれどもその人物が誰なのか、俺は何となく悟っていた。先程の笑い声が、幾度か耳にした事のあるものだったからだ。 「…ッ、……ド……?」 どうして此処に。そう問う様にやたらと重い腕を伸ばす。辛うじて届いた相手の肩をぐっと掴めば、ぽたぽたと水滴が幾つも落ちてきた。 濡れている、何故。そう疑問が頭に浮かぶより先に、弧を描いた唇が近付いてきたのに気付いて息を詰める。待て、と制止するより早く温もりが落ちて。更にするりと唇を割って、熱い塊が口内に侵入してきた。 「……ペドフィリアの趣味はねー筈なんだけど」 思う存分蹂躙された後相手が呟いた言葉に、ぐったりとしつつも内心憤る。 誰が幼児だ誰が、俺はこれでも高校生だ。そう心の内だけで主張していれば、ふと落ちてきた掌にそっと両目を覆われた。 「もうすぐ舞台が整う。泥棒は泥棒の立ち位置に、名探偵は名探偵の立ち位置に」 耳を擽るは、何処か気障めいた声色。 「お互いやるべき事をやる為に。今は少し休め、名探偵」 言葉が途切れると同時に、再び唇に温もりが落ちる。 少し温かさが戻ってきた口付けに促される様にして、ふわふわとしていた意識がすぅ、と遠くなっていくのを感じた。 咄嗟に伸ばそうとした手は、けれども思いに反してぴくりとも動かず。 (次はいつ会える、なんて思ったのはきっと絶対何かの間違いで) ======== 書き始めてから「2人共話し方判んねえぇぇえ!!(汗)」と焦ったのですが後の祭り…。 因みにペドフィリア=幼児愛好者(笑) ×Close |