【刷り込み】





「あ、神田」
きぃ、と船室のドアを開いた瞬間聞こえてきた声は、耳馴染んだそれよりも少し掠れていた。
視線を上げた神田の視界に映るのは、満身創痍な仲間達が佇む室内。ミランダの限界により負った傷が戻ってしまったその姿は、生き残った故の結果と言えど痛々しい。
「大丈夫なんですか、歩き回ったりして」
「…その台詞、そっくり返してやる」
とことこと歩み寄ってきた包帯塗れのアレンに、神田は一つ溜息を零す。そんな神田を擁護する様に、ソファに横になったままのリナリーがそうよ、と口を開いた。
「アレンくんは外傷よりも内臓の方がやられてる筈なんだから。あんなに何度も血を吐いてたんだもの」
「リッ、リナリー!」
あわあわと、慌てた風にアレンがリナリーを振り返る。その様子に神田は冷ややかに目を細めた。
かくなる上は、とアレンが反応する前にその体を担ぎ上げるべく、手を伸ばそうとして。
「何だ、怪我人の巣窟の割には賑やかだな」
しかし動き出す前に背後から聞こえてきた声に、神田は目を瞠って硬直する。
慌ててばっと後ろを振り向けば、顔の半分を仮面で隠した赤毛の元帥―――クロス・マリアンが其処には居た。
「げ、師匠」
神田の背後でアレンがぽつりと呟く。それにぴくりと片眉を上げ、クロスはふ、と咥えていた煙草の煙を吐き出した。神田の存在など意に介した風も無くその横をすり抜け、露骨に嫌な顔を浮かべる己の弟子に歩み寄る。
「久し振りに会った師匠に対する態度とは思えんな」
「そうですか? 僕は、師匠に対して相応しいであろう態度を取ってるだけなんですけど」
「ふん、相変わらずか」
くつりと喉を鳴らしてクロスがアレンに手を伸ばした。己に回される腕を甘受したアレンの体が、ふわりと柔らかな動作で抱き上げられる。
「何だ、身長が伸びてる割には相変わらず軽いな」
「成長期の男の子はそういうものだから心配しなくても良いよ、ってコムイさんが言ってたんですけど」
「あぁ…そういやそうか」
会話が交わされる合間に、アレンの指先がクロスの口元へと伸びた。
そっと自然な仕草で煙草を奪い取り、代わりと言わんばかりにクロスの頬にアレンのキスが落ちる。小鳥に啄まれる様なキスに喉を鳴らし、今度はクロスがアレンの眦にキスを落とした。抵抗する事も無く目を閉じたアレンの睫毛が、擽ったそうに揺れて―――。
「―――っっっ、な、何やってんだテメェ等―――!!!!」
「うわぁ!!?」
と、不意に室内に響き渡った絶叫と共にぐん、と背後から強い力で引っ張られ、アレンは思わず素っ頓狂な叫び声を上げる。そんなアレンには構わずクロスの腕からアレンを引ったくり、神田は触れれば切れる様な眼差しでクロスを睨み上げた。
因みに室内に居た彼等以外の人々は、うっかり目にしてしまったアレンとクロスの仲睦まじい様子に、赤くなったり青くなったり白くなったり灰になったりしている。
「………あ、あの、神田…?」
気付けば移動していた神田の腕の中で、アレンはぱちぱちと瞬きながら首を傾げた。
相変わらず睨み付けてくる神田と、そんな彼の腕に抱き上げられている己の弟子の姿を暫し見つめ、クロスはおもむろに口を開く。
「アレン」
「はい?」
「お前、神田とデキてるのか」
真っ向から落とされた爆弾発言に、室内の空気が凍り付いた。
しかしそんな空気を悟っていないのか、アレンはきょとんと一つ瞬くと、はい、とあっさりと頷く。
「何処までだ」
「はぁ、一応最後までいってますけど」
「神田の性格を考慮すると、そいつが進んで突っ込まれるとは思えんな。という事はお前がネコか」
「ええ」
「そうか…」
一瞬の沈黙の後、クロスがくるりと踵を返して。
「後で、ティムの映像記録見るからな」
「どうぞ?」
「待てぇ――――!!!!」
……最後に思わず叫んでしまった神田は悪くない、と思われる。多分。




その後。

「何考えてんだテメェは!! 幾ら師弟だからって限度があるだろ限度が!!」
「え、ええーと、限度って…?」
「少なくとも俺は師に対してキスなんかしねェ!!」
「ええ!!? そうなんですか…!?(がびーん)」
「…………(がっくり)」

そんな会話が交わされていたりして。





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何となく妄想で。
師弟が、会話はトゲトゲな癖に接触が甘々だったりとかしたらもえだなーとか思ったのでvv(笑)



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