【自信】





ごり、り。
突き出した棍から伝わってくる、喉仏を潰した感覚。
刃物が肉を切り裂く感触よりはましなそれを掌に感じながら、目の前の敵が倒れるより早くカインは地面を蹴った。
ど、さ。人が倒れ込むそんな音を耳に捉えつつ距離を縮めるは、先程から剣を構えたまま立ち竦んでいる男。反応される前に懐に入り込み、強張ったその表情に向けてにこり、一つ微笑みを捧げる。
場違いな微笑に、男の顔から一瞬恐怖が、消えて。
隙が見えたその瞬間を見逃さず、カインは男の鳩尾に棍を叩き込んだ。そのまま、鳩尾への衝撃によろけた男の顎を勢い良く蹴り上げる。骨が折れたか砕けたか、そんな音が微かに耳に届いた。
どさりとまた一人人間が倒れ込むのを横目に、態勢を立て直す。視線を巡らせれば、周囲にはあと十人程。地面に伏しているのはその倍程だろうか。
と、ふと馴染んだ気配を背後に感じると同時、どん、と背中を襲った軽い衝撃に、カインはぱちりと紅い瞳を瞬かせた。
「シーナ?」
「はは……ちょっと、ヤバげ」
覇気の無い声に、カインの眉が顰められる。
は、は、と繰り返される浅い呼吸。そして触れ合った背中から伝わってくる、どくどくとやけに早い鼓動。
常に無いシーナのその様子に、カインはやれやれとばかりに溜息を吐いた。
「煙草ばっか吸ってっからそうなるんだよ」
「阿呆か、毒に決まってんだろーが!」
咄嗟に勢い良く反論してしまい、シーナはぜいぜいと肩で息をする。その様子にくすりと微笑い、カインはシーナが凭れ易くなる様に態勢を僅かに直した。
「それだけ元気なら大丈夫そうだな」
「や、大丈夫じゃねーって…」
「症状は?」
「えーと…動機、息切れ、眩暈、吐き気、その他色々ってとこ」
「じゃ、これ飲んでろ」
背中越しにぽいと小さな丸薬を放られ、シーナは慌てて空いた方の手でそれを受け取る。
「何だこれ。毒消し?」
「フウマ特製の遅効薬。毒の効果を遅らせるもんで、消すもんじゃねぇよ。自然界のもんならともかく、人の手が入った毒に其処らの毒消しが使えるか、馬鹿」
「あー…、じゃあ紋章で解毒とか。お前今、左手流水だろ」
「……この状況でそれを言うか」
周囲の敵を視線で牽制しながら、カインは呆れた風に溜息を吐く。
「第一、怪我ならともかく解毒となるとなぁ」
「自信ナシ?」
「無いって訳じゃねぇが、さっさとこの場を収めてはぐれたルックかエルと合流した方が無難」
「あ、そ…」
がっくりと肩を落としたシーナに苦笑しつつ、カインは触れ合ったままだった背を離して姿勢を正した。距離を開けて自分達を取り囲む敵達を見据えつつ、持ち直した棍で肩を叩く。
「それ飲んで、大人しく待ってろ。残りは片付けてやる」
「おーう…」
弱々しく返事をしながら、シーナがずるずるとその場にしゃがみ込んだ。
丸まった背中に視線を落とし、まぁ暫く自分の身を守る位なら出来るだろう、とカインはくるりと棍を回す。
「ソウルイーターが使えりゃ手っ取り早いんだがな」
「―――何、使えねーの?」
ちらりと視線だけで見上げてきたシーナに、カインは口の端を上げて。
「いや、使えるけどな。只、ちょっと―――」
「……ちょっと?」
「お前が其処まで弱ってるとなると、一緒くたに喰っちまわない自信が、無い」
とん、と体の調子を確かめる様にカインがその場で軽く跳ねた。とん、とん、と軽い調子で繰り返し跳ねる音を聞きながら、シーナは―――毒の所為か、それともその他の理由からか―――仄かに染まった頬をぽり、と掻く。
「えーと、……此処は、照れるべき?」
ぽつりと呟いたシーナの言葉に、カインはまろやかに微笑んで。
「ご随意に?」
そう囁くと同時、カインは残りの敵を片付けるべく、たんっと軽快に地面を蹴った。





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序盤の敵さんに向かって微笑むカイン様が書きたかっただけなので、後半がえらくグダグダです。ぎゃふん。
カイン様ってルックには直球だけど、シーナには絡め手だと思うの(笑)



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