【あいしてる、ってこと】





かつん、と談話室に微かに響いた靴音に即座に反応したのは、やはり彼だった。
「アレン?」
目の前のケーキ―――因みにホールである―――がまだ半分残っているにも拘らず、ぴくりと顔を上げたアレン―――プランツドールと呼ばれる生きた人形に、彼の向かいに腰を下ろしていたラビは一つ瞬いて首を傾げる。
と、そんなラビに気付いているのかいないのか。アレンは不意にすっくと立ち上がると、談話室の入り口に向かって猛然と駆け始めた。何だ何だとアレンが走っていく方向へ目を向けたラビは、視界に入った漆黒の立ち姿にアレンの奇行を納得する。
「モヤシ」
ぼすん! と勢い良く飛び込んできた少年を腹で受け止め、青年―――神田は人形といえど失礼過ぎるアレンの愛称を呟き、その白い髪へと指を潜らせた。けれどもアレンはその呼び方を気にした風もなく、満面の笑みを浮かべて神田に擦り寄る。
団服越しに伝わってくる温もりにほっと密かに息を吐き出した神田は、ふとアレンの頬に付いたクリームに気付くと、僅かに眉を顰めて腰を屈めた。
「付いてんじゃねェか」
ぺろり。
舌でクリームを舐め取り、神田はラビ―――正確には、彼の手前に残された食べ掛けのケーキ―――に視線を向ける。
「まだ残ってんなら、食っとけ。コムイに報告に行ってくる」
とん、と背中を押して神田が促すも、アレンは彼の腰にしがみ付いたまま離れようとしない。ふるふると横に振られる腰元の白い頭に、神田は一つ息を吐いて、極自然な動作でアレンを片腕に抱き上げた。
「後で腹減った、ってぐずるんじゃねェぞ」
きゅう、と首に抱き付いてくるアレンに一つ念を押し、白い頭がこくりと頷いたのを確認して神田は踵を返す。
そのまま談話室を後にした二人を見送ったラビは、やがて彼等の気配が無くなった頃、ソファの背凭れにがっくりと凭れ掛かった。
「…………」
ナチュラルに頬舐め?
ナチュラルに抱っこ?
っていうかオレは完全無視っすかユウちゃーん。
そんな風に心中で一頻り叫び、ラビはちらりと周囲に視線を向ける。
談話室はエクソシスト専有、という訳ではない。勿論探索部隊や科学班など、黒の教団に所属する者なら誰にでも出入り自由な部屋だ。
そして不幸にも、今現在談話室に居た者達は―――ものの見事に、先程目の前で繰り広げられた光景に固まっていた。
「……解凍は当分無理そうさぁ」
ぽつりと呟き、一つ溜息を吐く。
それにしてもユウも大概丸くなったもんだ、とラビは遠くを見つめながら肩を竦めた。





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『観用少女』といえば、同人では王道パロの一つではありますが。
最近頭に回っててですね、ぐるぐるでしてね!もう大変なんですよ!(笑)

「あ、これ神アレなら原作世界観前提でイケる…?」と思い至ってしまったのが運のツキ(カインルクでも思い付いてはいたんだけど、どうしても現代パロになってしまうのでやる気が起きなかった)こうなるともう止まらない…。


因みに、抱っこはリーチの差に辟易した神田さんがやったのが始まりで、既に癖になってるだけだと思われます。
周囲からどう見られてるか、という事にはきっと思い至ってません。バ神田さんですから。



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