【どっちもどっち】





「あ、カイン」
教室を移動している最中、ふと聞こえた馴染んだ声が呼ぶ自分の名に、カインは自然足を止めて視線を上げた。
「リオ」
「次、移動教室?」
「お前は体育か」
うん、とカインに歩み寄りながら体操服姿のリオが頷く。
それと同時に出た軽い咳き込みに、カインは眉を顰めて空いた方の手を伸ばした。リオの後頭部を掴み、くんと引き寄せこつりと額を合わせる。
途端周囲のあちこちから、押し殺した黄色い悲鳴が上がった。
「朝より声が酷くなってきてねぇか。それで体育受ける気かよ」
「でも、本当に熱は無いんだよ。だるくもないし。喉が痛いだけ」
大丈夫、と至近距離で微笑うリオにカインは溜息を吐く。仕方無ぇな、と呟き、後頭部を掴んだままの手に更に力を込めて。
次の瞬間重ねられていた双子の唇に、周囲に居た全員が息を飲んだ。
「ん」
ぱちりと瞬いたリオの喉が鳴る。
すぐに離れた唇に、リオがぺろりと舌を出せば、其処には小さな固まりが一つ。
「喉飴?」
「舐めてろ。付け焼刃かもしれねぇけどな」
「ん、ありがと」
じゃあね、と手を振りながらリオがカインから離れた。
外へと向かうその背中を見送った後、実はずっとカインの横に居たりしたシーナが、引きつった顔でぽつりと呟く。
「……お前等、さぁ」
「ん?」
「あれ、わざわざ口移しする意味…あんの?」
「あぁ?」
疲れ果てた様な問い掛けに、何言ってんだこいつ、といった様子でカインが眉を顰めた。
「そんなもん、一旦口から出して手に持った飴をまた口に突っ込む方が汚ぇじゃねぇか」
ほら行くぞ、とカインがすたすたと廊下を進む。
その後によろよろと続きながら、いやでもその方が確実に周囲の衝撃度が少なくて済みました、ハイ―――とは突っ込めないシーナだった。





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どっちもどっちだと思います、はい。
ていうかオチがないぞオチが!(汗)



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