【密会】





―――体が、硬直した。
背後から、目の前の本棚へと突かれた二つの手。ほんの数センチの間隔を以て、自分を包み込む様にして立つ背後の存在に、アレンはぎこちなくこくりと喉を鳴らす。
今、自分達が立つ場所が図書室だとか。放課後ではあるものの、まだ下校時間にはなっていないのだから誰かが来るかもしれない、とか。そんな思考は、仄かな煙草の香りがふと鼻腔を擽った瞬間、何処かに吹っ飛んでしまった。
ゆっくりと手元の本を本棚へと戻し、平静を装って微笑みながら振り向けば、どうやら相手はその反応がつまらなかった様で。目の前の漆黒の双眸がゆるりと細められるのに苦笑しながら、アレンはそっと流れる漆黒の髪に指先で触れる。
「此処、学校ですよ。神田先生」
しゅるり。伸びた神田の手が、アレンの胸元のスカーフを解いた。
「まだ下校時間でもないです」
次いで、黒いスラックスを纏った足が、スカートからすらりと伸びたアレンの白い足を無造作に割る。
「先生」
どうやら止める気は無いらしい相手の動きに小さく苦笑し、アレンは再度神田を呼んだ。
ちらりと見下ろしてくる漆黒の瞳に向けてふわりと微笑む。
「眼鏡、外しても良いですか」
沈黙は、肯定の証。
アレンはゆっくりと両手を伸ばすと、神田が掛けている細身の眼鏡をそっと取った。それを丁寧に畳んで相手の胸ポケットに仕舞い、そのまま両腕を傍の細首に回す。
―――これは、二人の間の無言の約束。
眼鏡を掛けている間は、皆の先生。
でも外したら。
「神田」
此処に居るのは、自分だけの恋人。
「貴方、僕がうら若き花も恥らう十五の乙女だって事、忘れてるでしょう」
もう少し位、思春期ってものを考慮して下さいよ。
そう、ほんの少し不機嫌に呟きながら、アレンは神田を引き寄せちゅ、と口付けた。
「忘れてねェ」
それに返す様に、奪う様にして口付けながら、神田はにやりと笑って。
「だから、やってんだよ」
きつく抱き締められながらの神田の確信犯的な言葉に、アレンは今度こそポーカーフェイスを保てずにかぁ、と頬を染める。
その歳相応な反応に、神田は口の端を上げて満足げに微笑った。





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バトンで書いたもの。アレン嬢は初めて書きました(でも男の子の時との違いがあんまりない…)
セーラー服もえですよー。でも黒髪長髪眼鏡はもっともえですよー。



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