【眠りの国の】





漸く訪れようとしている秋の気配の混じった風が、開き放たれた窓から吹き抜ける。
遠くには、笑い声や部活の喧騒。放課後特有のそれを耳にしながら、アレンは国語準備室の扉をノックした。応えを待つ事無くからからとその引き戸を引き、室内をひょこりと覗き込む。
「神田先生、プリント持ってきましたよ」
掛けられた声に、しかし返事は無かった。
アレンはかくりと首を傾げ、そっと部屋に滑り込んで引き戸を閉める。本や紙が雑多に積まれた、けれどもある程度整頓された室内を進み、部屋の中央に向かい合う様にして置かれた幾つもの机―――その内の大半は、既に物置としてしか役目を果たしていない―――の内の一つにプリントの束を置くと、何かを探す様にきょろりと周囲を見回した。
と、部屋の奥、窓に添う様にして置かれたソファに目的の人物を見付け、アレンはほんわりと微笑む。
足音を立てない様にソファに歩み寄り、その上に横たわって眠る神田をそっと見下ろした。
「…眠り姫みたい」
眠り姫が駄目なら、白雪姫でも何でも良い。
とにかく無防備に眠る神田はとても綺麗で。
無造作に解かれ流れる漆黒の髪と、差し込む陽の光に照らされ白く映える肌の美しさにほう、と吐息を零すと、アレンは何かを思い付いた様にそろりと腰を屈める。アレンの頭が陽光を遮り、陰を作った。
「お姫様扱いしたなんて知ったら、激怒するかな」
眠り続ける恋人の顔を飽きる事無く見つめながら、アレンはくすりと微笑う。
更に腰を屈め、距離を縮めて。
「キスで目覚めるのは、お姫様だけなんですよ」
―――だから、お姫様じゃない人は起きないで下さいね?
そんな囁きと共に、ちゅ、と可愛らしい音が空気に響いた。
触れるだけのキスを落としたアレンはすぐにぱっと体を起こすと、くるりと踵を返して急いた風に部屋を後にする。閉められた戸の向こうから、ぱたぱたと廊下を駆ける音が聞こえて。
その後、ちっ、という音が室内に響いた事を知るのは、口許を押さえつつ赤面していた、舌打ちをした当の本人のみだった。





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セーラー服ネタでした(素直に教師×生徒と書こうよ)
女の子になってもアレンが攻っぽい気がするのは何故だ。ていうか神田先生負けてる負けてる(笑)



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