【A happy sexual life to you? 1】





ノックの後、そろりと開いた高等部生徒会執務室の扉。その隙間から顔を出したシーナは、其処から室内をきょときょとと見回し、やがてにんまりと楽しげに笑みを浮かべた。
「ルーちゃんとレノンちゃん、居ねーの?」
「図書館に資料取りに行ってるよ。ところで何? その気色悪い笑顔」
軽い足取りで室内に滑り込んだシーナの問いに答えつつ、リオがばっさりと切り捨てる。同時にカインがファイルをぱたんと閉じ、机に頬杖を突いた。
「やけに機嫌良さそうだな」
「んー? いや、まぁ機嫌が良いっつーか何つーか? イイ物手に入れたからお裾分けに来た訳よ」
「イイ物?」
「いいから手ぇ出せって」
ほれ、と近付いてきたシーナに急かされ、カインは怪訝な顔をしつつも掌を上に手を差し出す。その上に何かを握り締めたシーナの手がぽん、と置かれた。
そうしてシーナの手が離れていって。
カインの掌の上に残ったのは。
「…………」
コンドームだった。
「フェラの時にも楽しく! ゴムの匂いを抑えた苺の香り付きコンドームと、暗い部屋でもばっちり目立ちます! 蛍光塗料入りコン」
「要るか」
「ああっっ!!?」
説明途中にぺいっと手の中の物を放り投げたカインに、何すんだー!! とシーナが抗議する。その横で、頭が痛いとばかりにリオが眉間を指先で押さえて溜息を吐いた。
「あのね、シーナ…。付き合い始めてまだ数ヶ月の僕達は勿論、カイン達も倦怠期に入ってる訳じゃないんだし」
「別に倦怠期じゃなくったって使えば良いじゃねーか! 折角持ってきてやったのに!」
「頼んでねぇだろ」
「うっさい! とにかく使えよ!」
「は? あ、おい…!」
「ちょっとシーナ!」
二人が止めるのを余所に、シーナは言い捨ててばたばたと部屋を走り去る。
残されたカインとリオは顔を見合わせ、やれやれと嘆息した。
「もしかして、使い所に困ってこっちに寄越したんじゃねぇか? あれ…」
「かもね」
ともかく、とリオは手を伸ばすと、机の上に放られたままだったコンドームを拾い上げる。そうしてはい、とカインに手渡し、にっこりと微笑って踵を返した。
「じゃ、そういう事で」
「待て」
そのまま離れていこうとするリオの襟首を、カインが咄嗟にがっしと掴む。
「ちょ、カイン何す…!」
「何するじゃない! こんなもん人に寄越すな!」
「寄越したのはシーナでしょ! 大体レノンはまだそういう事に慣れてないんだから、こんな物使える訳がないじゃないか! フェラなんか教える段階にすら来てないよ!!」
「俺もこんなもんルーに使える訳ねぇだろうが!」
二人は暫しぎゃあぎゃあと言い争っていたものの、やがてリオが神妙な顔をして判った、と手を上げた。カインの手から二つのコンドームを受け取り、すっと顔の高さまで持ち上げる。
「此処は公平に、じゃんけんで決めよう。勝った方が好きな方を取って、負けた方が残った方を取る」
どう? と向けられる蒼い双眸に、カインは判った、とこくりと頷いて。
ぐっ、と、二人の拳が同時に握り締められた。





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タイトルの和訳は『楽しい性生活を貴方に?』でございます(大笑)
いやほら、某さまが私がゴムネタが得意などと仰るから、これは是非とも期待に応えねばと。

因みに続きます。



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