【A happy sexual life to you? 2】 「じゃ、適当に寛いでて下さいね」 そう言ってぱたぱたとドアの向こうへと消えていく少女の背中を見送り、リオは僅かに格好を崩して傍のベッドに寄り掛かった。 休日の午後に訪れたレノンの家は、ナナミが外出している所為か酷く静かだ。ナナミだけで三人分は賑やかだからなぁ、とリオはふふ、と肩を揺らして小さく微笑う。 と、身じろいだ拍子にふと己の鞄が腕に当たって。その感触にぱちりと一つ瞬き、リオは僅かな思考の後ごそりと鞄の中を探った。 そうして取り出したのは、先日シーナから押し付けられたコンドーム。 カインとのじゃんけん勝負の結果、パーで負けるという微妙に屈辱的な敗北を経て己の手に納まる事となった蛍光塗料入りのそれを見つめ、リオは深く深く溜息を吐く。 今日はレノンに数学の判らない所を教える、という名目でこの家にやって来た。が、ナナミが居ないという折角の大チャンスを逃すつもりは、リオには更々無い。勿論勉学も怠らないつもりではあるが。 しかしそれなら尚更どうしようか、とリオは目前のそれを睨み付ける。 恐らく使ってもばれる事はないだろう。カインが持っていった匂い付きの物ならともかく、今は昼間だ。蛍光塗料というからには暗い所で光る物だし、それ以前にレノンは恥ずかしがってリオの下肢に視線を向けられないのではないだろうか。 しかし。 「お待たせしましたー」 突然かちゃりと開いたドアに、リオは咄嗟にぼす! と手にしたそれごと右手を鞄の中に突っ込んだ。 そんなリオの奇妙な行動に、レノンは珈琲の乗ったトレイを持ったままきょとんと瞬く。 「……どうしたんですか?」 「ん? 何でもないよ」 さり気無くコンドームを鞄の奥に押し込みながらにこりと微笑うリオに、レノンは首を傾げつつもそうですか、と頷いた。そうして珈琲の入ったカップをローテーブルに置くその姿を見つめながら、リオはやっぱり止めておこう、と思う。 何というか、もし―――もし万が一ばれたとして、好きな子にそういう物を使う趣味がある、などと思われるのは、はっきり言って物凄く嫌だ。 そんな風に思考しつつ、珈琲に口を付けながらリオはさて、とレノンに視線を向けた。 「それで、判らない所って何処?」 「え、も、もう始めちゃうんですかっ!?」 「…僕、その為に来たんじゃないの?」 苦笑混じりにリオが問えば、レノンはだって、と尖らせた唇をトレイで隠す。 「レノン?」 「…だって、折角」 二人きりなのに。 そう、小さく小さく呟かれた囁きに一瞬目を瞠り、リオはやがてふわりと破顔した。 目の前の少女が、己と同じ様に思っていてくれた事が、嬉しくて嬉しくて―――愛おしくて。 「……レノン」 リオはそっとレノンの顔を覗き込むと、視線を落とす少女を下から見上げる。不貞腐れた様な瞳に微苦笑を浮かべ、頬に唇を寄せてちゅ、と啄んだ。 「つまらない事は、先にさっさと終わらせちゃおう?」 ね、と宥める様にリオが小首を傾げれば、頬を押さえたレノンは、あ、とも、う、とも聞こえる意味の無い声を漏らして赤面した顔を俯かせる。が、やがてすぐに視線だけをちらりと上向けたかと思うと、はい、と掠れた声で小さく頷いて。 余りに可愛らしい恋人のそんな様子に、リオは思わず傍の焦げ茶の髪に手を伸ばし、顔を綻ばせて柔らかく微笑った。 ======== 前回の続き。 予定外に甘々になりました。なーぜー?(笑) ×Close |