いのりのうた
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「……頭、痛い……」
「そりゃあれだけ泣きゃあな」
ベッドに腰掛け、その膝にアレンを向かい合う様に座らせた状態で神田は呆れた風に答えを返した。頭痛にうぅ…と呻くアレンは、お互いの体勢に恥ずかしそうにしながらも泣き止んだ後も神田から離れようとはしない。寧ろその腰に両手を回している。
この様な時間は最近では本当に稀で、離れ難い、というのが本音だった。甘える様に神田の肩に頬を擦り寄せながら、アレンは小さく嘆息する。
「…今、何時ですか?」
「あ? どうでもいいだろ、そんなもん」
「よくありませんよ。いい加減にしとかないとリンクが来ちゃう」
ね、と顔を上げて困った様に微笑うアレンにぴくりと片眉を上げ、神田はぴんっとアレンの鼻先を指で弾いた。
余り痛くはなかったものの突然襲った衝撃に、アレンは鼻を押さえて神田を睨み付ける。
「っ、何するんですか!」
「来ねェよ」
「は?」
きょとんとするアレンの腰をぐっと引き寄せ、神田は再度口を開いた。
「あの監査野郎は来ねェよ。だから朝まで居ろ」
アレンの今回の訪問は、十中八九ルベリエの差し金だろう、と神田は踏んでいた。
恐らく目的はガス抜き。
『14番目』や方舟の件に加えて、延々と続く一人になれない生活、そして周囲からは疑いの目で見られる毎日。幾ら図太いアレンといえど、相当にストレスが溜っている事は想像に難くない。そしてもしその所為でアレンが使い物にならなくなったとすれば、『飼う』と決めた意味すら無くなるのだ。
故にルベリエは、アレンが遠からず神田の許へ行くだろうという事を予想した上で、制約付きながらも一時的に自由を与える様リンクに指示を出していたに違いない。
神田がそんな意図に気付き、それでもアレンを受け入れるであろうと見越した上で。
無益ならば指一本動かさないが、有益ならば幾らでも動く。ルベリエがそういう男である事を、腹が立つ程に神田は良く知っていた。
「…その断言の根拠は?」
「さぁな」
ならば今は敢えてそれに乗ってやるまで。
そんな考えのままに神田はアレンの喉許に噛み付き舌を這わせる。ひくりとした震えを唇で楽しみながら、ゆっくりとシャツの釦を外し始めた。
きっと、明日からはいつも以上に苛立つ日々が始まるだろう。
アレンを取り巻く現状に。それをどうする事も出来ない自分に。
だからこそ今ばかりは手放す気は無かった。
「……っん」
迷う様な表情をしていたアレンも、釦が全て外されてしまうと堪え切れないといった様子で神田の頭をぎゅっと抱き締める。その力を心地好く感じながら、神田はアレンの肌に手を滑らせた。
「寝れると思うなよ」
「…それはこっちの台詞ですよ」
そして今はただ、お互いに溺れるのみ。
余りに不条理なこの世界で、それでもそのぬくもりが胸にあれば明日からもきっと立っていられるから。
終
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開店休業明け一発目!
冒頭を書いてた時はアレンさんの現状に憤る神田さんを書くつもりだったんですが、4行目で神田さんが笑った描写を打った瞬間「あれ、何で神田さん笑ってんの?」と固まってしまい、暫しの思考の硬直の後神田さんが勝手に動き始めたというか暴走し始めたというか…。
でも書き上がってみれば、うちの神田さんはこっちの方が良いかもですね。
20090214up
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