境界線
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「ほ、本当に大丈夫だから、ラビ…!」
「全然そんな風には見えないさ!」
神田が無事任務を終え地下水路の船着場へと着いた時には、既にその押し問答は繰り広げられていた。
見れば、リナリーに言い募るラビと、そんな彼から逃げ腰になっているリナリー。そしてそんな二人を取り囲む様にして、数人の探索部隊が困った様子で立ち尽くしている。
神田は小さく嘆息すると、船から飛び降りそのまま彼等の許へ歩み寄った。
「おい」
「あ、ユウ」
「神田!」
ファーストネームを呼ぶんじゃねェ、とラビにしっかりと突っ込んでから、神田は振り返った二人へと呆れた風に視線を向ける。
「こんな所で何揉めてんだ、お前等は」
「ああ、これこれ」
「ラビ!」
「?」
ラビが指し示す方へと神田が視線を向ければ、其処には血の滲んだ包帯に包まれたリナリーの右太股があった。じっと注がれる二人分の視線に、リナリーが居心地悪そうに肩を竦める。
「歩くの辛そうだから医療班までおぶってくって言ってんのに、大丈夫だって言い張って聞かないんさ」
「だ…だって本当に大丈夫だもの。傷だって小さいし…」
呆れ顔で腰に手を当てるラビに、恐らく何度も繰り返したのであろう言葉をリナリーが困った様な表情で言い返した。そんな二人を暫し眺めた後、神田はおもむろにリナリーに歩み寄りその目の前に膝を突く。
「神――」
そしてリナリーが不思議そうに見下ろすが早いか、そのスカートの端を掴み、何の躊躇も無くぴらりと軽く捲った。
「……………ッッ!!!?」
突然目の前で起こった余りの状況に、ラビと、その場に居た探索部隊は完全に硬直する。
同時に何やってんのあんた!!!! と全身全霊で心中で叫びつつ、この後起こるであろう惨劇を覚悟した。
訪れるのはリナリーの華麗なる蹴りか、それともコムイの暴走か。
前者ならば死ぬのは神田だけで済むが、後者ならば本部全てを巻き込む被害にもなりかねない。
と、思わず身構えてしまった周囲の人々を余所に、神田はスカートを捲った状態のままもう片方の手を伸ばすと、包帯越しに太股に触れそのままぐっと指先に力を込める。
「いッ…!」
同時に上がる小さな悲鳴と、更にじわりと血の滲む包帯。それらに眉を顰めて舌を鳴らし、神田はスカートから手を離してすっと立ち上がった。
「何が傷は小さいだ。要は深いんじゃねェか」
この馬鹿、と言い捨てるが早いか、神田は小さく身を屈めてその細い体を横抱きに抱き上げる。リナリーは少し驚いた様な顔をしたものの、すぐにバツの悪そうな表情を浮かべて神田の首に腕を回した。
きゅっと縋り付いてくるリナリーを確認した後、神田はふいとラビへ向けて顔だけで振り返って。
「おい。医療班には俺が連れてくから、お前は報告行ってこい」
「……へ? あ、えと、りょ、りょーかい…」
ラビの何処か上の空な感のある返答に眉を寄せたものの、神田はそのまま何も言う事無く踵を返して階段を上がっていく。
程無くして、靴音と共に小さく会話が聞こえてきた。
「大体何で駄々捏ねてたんだよ、お前は。素直にラビに連れてって貰えば良かっただろうが」
「……だって……」
「何だよ」
「…さ、最近男の人に背負われたりとか抱き上げられたりとか、何だかちょっと抵抗あるんだもの」
「ああ? じゃあ今のこの状態は何だってんだ」
「神田は良いの!」
ゆっくりと遠のいていく二人の声に、ラビは小さく息を吐きながらぽり、と指先で頬を掻く。
色々複雑な気分になりながらも、惨劇は起こらなかった事だしまぁ良いか、と思いつつ、取り敢えず胸の中に落ちたモヤモヤは見ない振りをする事にした。
終
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日記より再録。
ラビュ17歳、リナ15歳。
一応そこそこ思春期の女の子(但し恋愛方面に関しては成長ゼロ)なリナリーと、周囲の男共にスカートの中身が見えない様にする位の配慮は出来る(但しリナ限定)神田さん。
リナリーのスカートの中身は聖域です。
20090330up
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