001:晴れた日に
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ピンポーン。
「ユーウー、アレーン、あーっそびーましょー」
チャイムの音と共に、間延びした声が住宅街に響いた。





◇ ◇ ◇





「全くもう…。来るなら事前に連絡下さいよ、吃驚したじゃないですか」
「ん、悪かったさぁ。ついうっかり」
呆れた様子のアレンからコーヒーの入ったカップを受け取りつつ、ラビはにへらと笑みを浮かべた。
ついうっかり。そんなものは当然ながら嘘、連絡しなかったのは故意である。
親友―――と、ラビは思っている―――である級友と可愛がっている後輩がいつの間にやら同居を始めていた、という事実を知ったのは、夏休みが終わったばかりの先週の事。
同居に到るまでの過程を一通り説明され納得はしたものの、何だかんだ言って今まで殆ど接点がなかった二人である。彼等が一体どんな生活をしているのか気になって仕方なかったラビは、こうして休日を利用しアポ無し訪問を仕掛けたのだが―――。
「で、ユウは?」
「まだ帰ってませんよ」
「へ?」
リビングを見回しながらラビが問えば、アレンは至極当然といった様子で答えを返した。ラビが思わず壁に掛けられた時計を見れば、現在の時刻は午前十一時二十一分。
「何処行ってるんさ?」
「道場ですよ。土日の午前中はいつもそうですけど……知りませんでした?」
小首を傾げながらのアレンの答えにラビはああ、と得心して頷く。
確かに、休日に道場に通っているという話はラビも聞いた覚えがあった。諸事情で一年の時に高校の剣道部を退部した―――因みに中学の時は、そもそも入部すらしなかった―――神田だが、剣道自体は幼い頃から通っている剣術道場でずっと続けているのだ。
「いつ頃帰ってくるんさ?」
「もうそろそろですよ。遅くても十二時前には―――あ、ほら」
言葉途中でふと玄関の方から聞こえてきた物音に、アレンが顔を綻ばせてそちらに足を向ける。と、アレンが辿り着く前にリビングのドアがかちゃりと開き、剣道着の神田がリビングに入ってきた。
「お帰りなさい、神田」
「ああ」
アレンに応えながらちらりと視線を巡らせ、ソファに座るラビを見つけるや否や神田は嫌そうに顔を顰める。
「玄関に靴があると思ったら、やっぱりテメェか」
「お邪魔してマース」
へらっと笑ったラビが手に持ったカップを軽く掲げれば、神田はふん、とそっぽを向いて小さめのエコバックをアレンに差し出した。因みに黄色いチェック柄のそれは、明らかに剣道着姿の神田と合っていない。
しかしそんな事は気にした様子もなくエコバックを受け取ると、アレンは中身を覗き込んで満足げに笑みを浮かべる。
「有難うございます。道場帰りにすみませんでした、お使いなんか頼んじゃって」
「それで良かったのか」
「はい!」
大きく頷いて踵を返すと、アレンはぱたぱたと軽い足取りでキッチンへと向かった。が、ふと途中で足を止め顔だけで振り返る。
「神田、バスタオルと着替えはもう脱衣所に置いてありますから」
「ああ」
アレンの言葉に頷いて神田も踵を返した。そのままスタスタとリビングを後にする。
その一連の二人の会話と行動を見守っていたラビは思った。
―――まるで、新婚夫婦の遣り取りの様だ。
「………………」
一時の沈黙の後、ラビは脳裏に過ぎった考えから目を逸らす様に庭へと顔を向ける。
花々が咲き誇っていたりする訳ではないが、きちんと綺麗にされた庭では干された洗濯物がひらひらと揺れていた。
澄み渡る青空の下、陽光の中で緩やかに踊る洗濯物。まさに平和と呼ぶに相応しい光景。
(………ん?)
と、ほのぼのとその光景を眺めていたラビは、洗濯物の一画に見覚えあるものが干されている事に気が付いた。―――神田の下着である。
クラスが同じという事は一緒に着替える機会も当然ある訳で、更に人より記憶力が良いラビは、先日着替えの際に視界の端に映ったそれをしっかりと覚えていた。しかし問題は其処ではない。
問題は、その隣に干された…。
「ラビー? お昼ご飯はまだ…、……ラビ?」
ひょこりとキッチンから顔を覗かせたアレンが、唖然と庭を見つめるラビに気付いて怪訝な表情で歩み寄ってくる。
「ラビ?」
「……アレン、あれ……」
「はい?」
「あのパンツ…」
ぽそぽそと呟かれるその内容に嫌そうに眉を顰め、アレンは庭へと視線を投げた。
「人の下着をそんなにまじまじと見つめないで下さいよ…。僕と神田の下着がどうしたんですか?」
「……やっぱあれ、アレンのなんさ…?」
「そうですよ。左が神田、右が僕のです。二枚一組で安かったんですよねー、あれ」
予想は出来ていた。
庭に干された洗濯物は、大雑把に見ても大体一日分位である。アレンは溜める事なく毎日洗濯をこなしているのだろう。
という事はつまり、あの仲良く並んだ二枚は同時期に別人に穿かれたという事なのだ。
あの、同じ柄、色違いの二枚の下着は―――。
「で、ラビ。キミの分もお昼ご飯作って良いんですか?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…作っちゃいますからね」
沈黙し続けるラビに嘆息すると、アレンは呆れた風に言い捨てキッチンに戻っていった。
そんなアレンにも気付かず一頻り二枚の下着を見つめ続けた後、ややあってラビはよく晴れた青空へと視線を投げる。
ふと頭に浮かんだペアルック、などという凶悪な単語は、自身の精神の安寧の為に即座に脳から消去する事にした。





- End -





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神アレ同居パラレル。以前書いた『035:連鎖』よりも前の時期です。
以前某所のチャットで呟いたぱんつdeペアルック☆でしたが……よくよく考えると原作でもペアルックの可能性って結構高いですよね(支給品着用だろうし)

ていうか!ぱんつの描写を頑張ろうと思ったんですけどね!ね!何故かどうしても二人のぱんつが想像出来なくて…!(そして結局こうなった)
どうやら私の中で二人のぱんつは聖域の様ですよ(笑)



(2010-06-21初出)

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