「……さて」 大まかに片付けられた室内。椅子に腰掛けたリオの正面に、カインと名乗った少年は陣取っていた。 警戒心も露に遠巻きにする者達など気にする風も無く、机に頬杖を突いてリオや周囲にその紅い視線を向けている。その瞳が時折懐かしげに揺れるのに、リオは何となく気付いていた。その理由は、未だ知る事の無いまま。 「何者なのですかな、貴方は」 背後からの至極尤もな問い。予想通りなマッシュの台詞に、リオは自然口元に苦笑を浮かべる。 同じ漆黒の髪、同じ顔。違う所といえば、瞳の色と服装――――そして、雰囲気か。 何処となく酷似しているのに、けれど何処となく似ていない。帝国側が何か企んでいる事も考えられたが、何となく違う気がしてリオはカインをじっと見つめた。 カインが肩を竦めて微笑う。 「何者、と言われてもな」 「説明出来ないのであれば、このまま牢に入って頂く事になりますが」 「うーん、それもちょっと」 くつくつと喉で笑いながら、そうだなぁ、と紅い瞳を細めて。 「面倒臭いから詳しい説明は端折るが。まず、世界ってのは一つじゃない」 「………は?」 気に抜けた声がリオの口から漏れた。周囲の者達も目を瞬かせ、怪訝な視線がカインに集中する。 「色んな世界がある。お前が俺みたいに紅い目だったり、髪の色が違ったり、性別すらも違ったり、な。もしかしたら全く存在しない世界もあるかもしれない」 暫しの沈黙の後、リオが小首を傾げて。 「…―――君は、違う世界の僕だと?」 「理解が早くて助かる。ま、系統は近いだろうけどな。偶然が積み重なったとはいえ世界の壁を越えた訳だし」 「…………」 あっけらかんと話すカインに、リオの眉が困った様に寄せられた。それを見てカインが苦笑する。 「信じられねぇか?」 「……ちょっと突拍子過ぎるからね」 「だよなぁ」 さして気にする風も無く、可笑しそうにカインの指がすい、と向けられて。 「じゃあ訊いてみな」 「は?」 「俺よりは信用出来るだろ」 リオが促されるまま振り向けば、其処には壁に背を預けるルックが居た。その顔は難しそうに顰められ、じっとカインを凝視している。 「…ルック?」 「……そいつの言ってる事は本当だよ」 滅茶苦茶説明が大雑把過ぎるけどね、と付け加えて。 「違う世界のあんた、っていうのも多分本当。単純に帝国の刺客と疑う事も出来るけどね。それじゃあちょっと説明出来ない事が幾つかあるから」 「例えば?」 「そいつの右手のそれは、似て非なるものって感じはするけど確かに真の紋章―――ソウルイーターだ。けど同じ真の紋章が同時に二つ存在するなんて、そんな事はまず有り得ない。以前の様に……星辰剣に、過去に飛ばされたとかならともかくね」 一瞬途切れたルックの言葉にリオは微かに微笑んだ。気を使ってくれてるのだろうか。そう思って。 その様子をカインに密かに見られている事に、リオは気付かない。 「第一、只人に真の紋章の暴走を止められる訳が無いし」 「…そっか」 ふむ、と息を吐きつつ、リオがカインに向き直った。 「じゃあルックもああ言ってる事だし、信用してみようかな」 「宜しいのですか?」 僅かに眉を顰めたまま問うてくるマッシュに、くすりと悪戯めいたリオの視線が向けられる。 「大丈夫、彼に害は無いよ。―――根拠は無い、僕の感だけどね」 にっこりと告げられた言葉に今度こそマッシュは閉口した。周囲の者達も固まる中、カインだけがくすくすと笑みを零す。 「結構イイ性格してんなぁ、お前も」 「有難う、お褒めの言葉だと思っておくよ。それで、さ」 「ん?」 「君は、どうしてこっちの世界に来たの?」 「それは僕も訊きたいね。どうして、っていうかどうやって、だけど」 リオの問いと横からのルックの問いに、カインは肩を竦めて。 「俺の意思じゃ無ぇよ。巻き込まれたんだよな、近く歩いてただけだったのに」 「巻き込まれた?」 だから、と呟きが漏れる。 「ビッキーが暴走したんだよ」 「…………」 「…………」 物凄く納得出来る理由に、珍客の暫しの滞在はこの時決定した。 Next→ ======== 困った時のビッキー頼み(え) ×Close |